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フランコ政権下の1970年代に高まった都市社会運動の流れを汲むバルセロナ市は、市長がリーダーシップを発揮しながらも、常に市民とビジョンを共有し、ともに都市を形作っていくことを重視してきました。

まちに関わる人たちのシビックプライドを高める!都市のコミュニケーション・ポイント事例まとめ9選(PART2)

PART1はこちら

シビックプライドを高めるために

都市(まち)に住む人、働く人、遊ぶ人など、都市に関わる人がその都市に対するシビックプライド(シビックプライドの定義などはこちらの記事をご覧ください)を持ち、高めていくためにどのようなアプローチが有効なのでしょうか。まず前提として、住みやすい、働きやすい、楽しい都市であるために、必要なインフラやサービスといったコンテンツが整っている、または改善に向けた動きがあるということが大事でしょう。その上で、都市に関わる人と都市そのものとのコミュニケーションをデザインすることが重要です。

「シビックプライド−都市のコミュニケーションをデザインする(宣伝会議Business Books)」では、ヨーロッパの8つの都市と2つの組織の取り組みが紹介されています。都市とのコミュニケーションのきっかけとなる、建築や景観、広告キャンペーン、フェスティバルなどといった多岐にわたるコミュニケーション・ポイント事例が9つまとめられています。この9つのコミュニケーション・ポイントはあくまでも例示で、各都市ごとにそれぞれを組み合わせた面的な取り組みが重要です。こうした多様な都市のコミュニケーション・ポイントが引き金となり、都市のアイデンティティを感じたり、都市に共感したり、都市を理解または体感することでシビックプライドを高めることができます。

都市(まち)のコミュニケーション・ポイント9事例

シビックプライド−都市のコミュニケーションをデザインする(宣伝会議Business Books)で紹介されている、都市のコミュニケーション・ポイント事例9つ。(画像引用元:PDF

都市のコミュニケーション・ポイント事例9つ

あくまでも都市の持つ資産や抱える問題、都市に関わる人との関係、目標設定などは、都市ごとによって異なるので、シビックプライドを高め、育んでいこうとするストーリーは都市の数だけあります。その上で、先行してシビックプライドを高める取り組みを始めているヨーロッパの都市などから、都市に関わる人と都市とのコミュニケーションデザインの思想や手法を学ぶことの意義は大きいです。

(1)広告・キャンペーン

広告やキャンペーンは、即効性や直接性があるメディアとして多くの人々に手軽に理解と共感を促し、都市ビジョンの共有の入口として機能します。代表例は、2005年からスタートしたバルセロナ市コミュニケーション局による「BARCELONA BATEGA!(バルセロナがドキドキする!」キャンペーンです。「あなた(=市民)がドキドキすると、バルセロナもドキドキする。何百万もの(市民の)夢があり、何百万もの(市の)プロジェクトがある。それらを結びつけて一緒に夢を実現しましょう」と呼びかけます。

「BARCELONA BATEGA!」キャンペーンはバナー(旗)やポスター、テレビ、新聞、雑誌、バスラッピングなど様々なメディアで展開しました。

「BARCELONA BATEGA!」キャンペーンはバナー(旗)やポスター、テレビ、新聞、雑誌、web、バスラッピングなど様々なメディアで展開しました。画像は書籍「シビックプライド」より引用。

バルセロナのまちづくりは、フランコ独裁政権崩壊による1978年の民主化と1992年開催のオリンピックという二つの大きな出来事がきっかけとなって進められてきました。1978年にスペインが民主主義体制に移行したことで「バルセロナ・モデル」として知られる都市再生が行われました。そこで重要視されたのが都市に関わる人と都市そのものとのコミュニケーションでした。バルセロナオリンピックの際にも大胆な都市インフラ整備に加え、広報誌で市のビジョンやそれに対してプロジェクトがどのように進められているかを市民にわかりやすく伝えることに努めるなど、バルセロナでは都市の未来を市民と共有化するためにコミュニケーションを30年以上実践してきたのです。

フランコ政権下の1970年代に高まった都市社会運動の流れを汲むバルセロナ市は、市長がリーダーシップを発揮しながらも、常に市民とビジョンを共有し、ともに都市を形作っていくことを重視してきました。

フランコ政権下の1970年代に高まった都市社会運動の流れを汲むバルセロナ市は、市長がリーダーシップを発揮しながらも、常に市民とビジョンを共有し、ともに都市を形作っていくことを重視してきました。画像は書籍「シビックプライド」より引用。

民主化や都市再編のイメージを市民に共有する必要性から、30年以上にわたりコミュニケーションを重視した施策に取り組んできたバルセロナ市コミュニケーションおよびクオリティ局。バルセロナにはヨーロッパの中でも活躍している広告代理店が数多くあり、スペインの中ではマドリッドを抜いて一位です。(参考資料:PDF)市当局と地元広告エージェンシーとの連携が生んだ都市キャンペーンで、バルセロナに関わる人のシビックプライドを高めています。

(2)ウェブサイト・映像・印刷物

ウェブサイトや映像、印刷物は各々特性は違いますが、いずれも情報共有のため、個人に応じて理解を深められ、繰り返しアクセスできるメディアです。代表例はブラッドフォードの独創的な都市再生のマスタープランを伝えるキャッチなー映像作品「Picture a City(都市を描き出せ)」(動画はこちら)です。4分半の動画で、ブラッドフォードのまちの現在と未来を描き出しています。

ブラッドフォードはイギリス産業革命の後、毛織物産業のまちとして発展してきました。19世紀以来、多くの移民や外国人商人を受け入れてきたコスモポリタンのまちです。しかし、20世紀半ばのイギリスの繊維産業の急速な失速により、ブラッドフォードは経済的、文化的に凋落します。ブラッドフォードと同じく毛織物産業で繁栄した隣町のリーズが、ショッピングやナイトライフの都市として発展してきたのに対し、打つ手もなく凋落していくばかりのブラッドフォード。住民は諦めにも似た感情を抱いていました。そこで2003年に都市再生会社であるブラッドフォード・センター・リジェネレーション(BCR)が設立され、都市再生がスタートします。そして、中心市街地再生マスタープランとそのビジョンを市民に伝えるために作られたのが「Picture a City」でした。映画館や広場の大きなディスプレイなど、一般の人々に向けたメディアで流されました。

映像作品「Picture a City」のコマ送り。都市再生マスタープランが描き出す都市の未来を伝えています。

映像作品「Picture a City」のコマ送り。都市再生マスタープランが描き出すブラッドフォードの未来の姿を伝えています。

もう一つ、英国建築都市環境委員会(CABE)の取り組みもここで取り上げます。CABEとは建築や都市環境のデザインの質を向上させるためにイギリス政府によって設立された行政機関。公園や緑地、広場などの公共空間、学校、医療施設などの公共建築、他にも商業施設やオフィスなどにも及び、総合的な視点から都市空間に対する調査やアドバイスを実践しています。

CABEで発行しているレポートの数々。中でも「360°」という雑誌は年3回発行され、イギリス中の5,000もの学校や教育機関に無料で配布され、子供たちの都市に対するリテラシーを養うための教材として活用されています。

CABEで発行しているレポートの数々。中でも「360°」という雑誌は年3回発行され、イギリス中の5,000もの学校や教育機関に無料で配布され、子供たちの都市に対するリテラシーを養うための教材として活用されています。

都市のコミュニケーション・ポイント事例9つのうち、(1)広告・キャンペーン、(2)ウェブサイト・映像・印刷物についてご紹介しました。PART3では(3)ロゴ・ヴィジュアルアイデンティティ、(4)ワークショップ、(5)都市情報センターについて取り上げます。次回記事もぜひご覧ください。

9/11(日)に「松戸のシティプロモーションとシビックプライドについて考えよう!トーク」を開催します(参加申込不要・直接会場へ)

9/11(日)に、今回の記事に関連するイベント「松戸のシティプロモーションとシビックプライドについて考えよう!トーク」を開催します!特別ゲストに松戸市のシティプロモーションに関わっている方もお招きし、今まさに行われている松戸市の取り組みの紹介と、これから住民と一緒に何ができるかについて参加者と一緒に意見交換する予定です。

PART3はこちら

PART4はこちら

PART5(最終回)はこちら

※サムネイル画像はこちらのサイトから引用させていただきました。

(2016/09/05)

著者プロフィール

funahashi taku

funahashi taku

空き家を魅力的な「まちのコンテンツ」に生まれ変わらせたり、社会的課題解決のツールとして活用したい、そんな観点から書いているブログ「空き家グッド」を運営しています。2015年6月からはMAD Cityのウェブメディア「madcity.jp」に記事をちょくちょく寄稿しています。
http://akiya123.hatenablog.com/

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