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国立美術館の前にあるMuseumplein(ミュージアムスクエア)と呼ばれる広場の中心に置かれている「I amsterdam」の立体ロゴ。ここでみんな記念撮影をします。

まちに関わる人たちのシビックプライドを高める!都市のコミュニケーション・ポイント事例まとめ9選(PART3)

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(3)ロゴ・ヴィジュアルアイデンティティ

ロゴやビジュアルアイデンティティは、まちと人々との一体感をもたらすためのシンボルやモットーとして機能します。代表例は、”都市の資産は人である”という理念を言い表した、アムステルダムの「I amsterdam」という都市キャンペーンのロゴとキャッチコピーです。「I amsterdam」には、アムステルダムに住む人、関わる人全ての人がアムステルダムを表現する存在であるというメッセージが込められています。

国立美術館の前にあるMuseumplein(ミュージアムスクエア)と呼ばれる広場の中心に置かれている「I amsterdam」の立体ロゴ。記念撮影スポットになっています。

国立美術館の前にあるMuseumplein(ミュージアムスクエア)と呼ばれる広場の中心に置かれている「I amsterdam」の立体ロゴ。記念撮影スポットになっています(画像引用元)

「I amsterdam」のロゴが入ったTシャツやキャップなどのほか、ナプキン立てや自転車のベル、携帯ストラップなど様々なグッズも作られています。そんな「I amsterdam」というコンセプトフレーズをつくり、デザインとプロモーション戦略に落とし込んだのは、アムステルダム在住のデザイン事務所「ケッセルスクラマー」でした。ロゴのほかにも、アムステルダムの姿を20人の写真家に撮影させ、写真集を制作します。(参照記事)市長が海外へ行くときには写真集をお土産に持って行き、写真展を開くなどしてアムステルダムをプロモーションしています。

アムステルダムで暮らし働く人々の日常の姿や都市の風景、肖像写真などから、アムステルダムのリアルな模様が伝わってきます。画像は書籍「シビックプライド」より引用。

アムステルダムで暮らし働く人々の日常の姿や都市の風景、肖像写真などから、アムステルダムのリアルな模様が伝わってきます。画像は書籍「シビックプライド」より引用。

「I amsterdam」のロゴは、簡潔で力強い書体と明るい色彩のデザインで、「I ❤︎ NY」のような磁力を持っています。宗教的寛容さから異教徒を受け入れてきたり、1960〜70年代にかけては世界中からヒッピーが集まってきたりと、アムステルダムには自由と寛容の気風を培ってきた歴史があります。「I amsterdam」は、そんなアムステルダムのまちの一員であるという愛着や自負を呼び起こす、コミュニケーションのきっかけになっています。

Instagramで「I amsterdam」というハッシュタグを検索してみると、あの立体ロゴの前で写真を撮る人たちがたくさん。街の日常風景も混じっているのも印象深いです。

Instagramで「I amsterdam」というハッシュタグを検索してみると、あの立体ロゴの前で写真を撮る人たちがたくさん。街の日常風景も混じっているのも印象深いです。(画像引用元)

(4)ワークショップ

まちを知り、自分とまちとの関係を考え、自分なりのアクションを構想し、実際に動いてみるというプロセスは都市のリテラシーを育みます。そういったプロセスを描くワークショップも、都市とのコミュニケーションのきっかけになります。代表例は、2002年にマンチェスターにオープンした「URBIS(アービス)」です。URBISとはラテン語で「都市」を意味します。

URBISの外観。ガラスのカーテンウォールの建築で、敷地の約半分は公開緑地として整備しています。

URBISの外観。ガラスのカーテンウォールの建築で、敷地の約半分は公開緑地として整備されています。(画像引用元)

「URBIS」は地上7層、地下1層から構成される建物で、1階には500㎡の大きなホワイエに面して地方テレビ局のスタジオ、他にもショップ、カフェ、多目的室があります。2階〜5階は全て多目的な展示ができるスペース、6階〜7階はバー、地下はオフィスなどがあります。URBISの活動コンセプトは「都市生活のミュージアム」。コレクションは持たず、都市に生活する人々や出来事に活動の焦点を当てているのが特徴的です。そのため、展覧会やワークショップ、ツアーなど、ソフトの面から都市とのコミュニケーションを実践しています。主なターゲットは25歳以下の若者、エスニックなどの移民、ひとり親やあまり裕福でない人々といった社会で比較的弱い立場に置かれている人々が多いそうです。

貧しい地域の学校に通う子供たちのためのワークショップを開催するなど、教育的な視点で都市との関わり方などを議論したりします。画像は書籍「シビックプライド」より引用。

貧しい地域の学校に通う子供たちのためのワークショップを開催するなど、教育的な視点で都市との関わり方などを議論したりします。画像は書籍「シビックプライド」より引用。

そもそもURBISは、1996年にマンチェスターで起きたIRAによる爆弾テロ事件がきっかけとなって生まれました。国家を挙げた復興事業「マンチェスター・ミレニアム・プロジェクト」の中心施設がURBISでした。そして、希望のある再開発を進めるために、文化がキーになると考えられたのです。社会的に立場の異なる人々とともに都市をテーマとしたワークショップを行うことで、市民のあるべき姿について議論し、共通の認識を見つけていきます。

都市に関わる人同士が都市をテーマに対話する、URBISはシビックプライドのための活動拠点としての役割を担っています。画像は書籍「シビックプライド」より引用。

都市に関わる人同士が都市をテーマに対話する、URBISはシビックプライドのための活動拠点としての役割を担っています。画像は書籍「シビックプライド」より引用。

(5)都市情報センター

都市情報センターは、とてもバランスの良いコミュニケーション・ポイントです。都市の過去・未来・現在の情報を共有し、理解を促し、体験を提供します。人目につきやすい立地、憩いの場の提供など、幅広い層の人々を呼び込む実空間であることが重要です。代表例は、ヨーロッパ最大規模の都市再生プロジェクトであるハンブルク市街地のウォーターフロント「ハーフェンシティ」です。

2001年に建設着工してから現在進行形の再開発が行われているハーフェンシティ。住宅やオフィス、文化、観光、商業など多用途な施設で構成されています。

2001年に建設着工してから現在進行形の再開発が行われているハーフェンシティ。住宅やオフィス、文化、観光、商業など多用途な施設で構成されています。(画像引用元)

ハーフェンシティの再開発の特徴は、市民とのコミュニケーションを意図しているものが多いことが挙げられます。例えば、開発の順序です。様々な建物や施設よりも前に、広場などのオープンスペースが整備されました。市民たちは散歩をしながら建設の現場を目撃し続けることで再開発のプロセスがわかるわけです。そして注目なのが、発電所をリノベーションした都市情報センター(インフォセンター)の存在です。都市情報センターには、開発プロジェクトに関する様々な情報公開を積極的に行っています。例えば、開発の全貌を視覚化する巨大都市模型や、開発の現場を実際に見ることができる展望タワーなど、再開発(都市)を知るためのコミュニケーションがいたるところにデザインされています。

縮尺1/500、幅8m、奥行き4mの巨大都市模型を使ってガイドツアーが行われています。

縮尺1/500、幅8m、奥行き4mの巨大都市模型を使ってガイドツアーが行われています。(画像引用元)

着々と姿を変えていくハーフェンシティの成長を、常に見守ることができる展望タワーからは、開発の現場を一望することができます。画像は書籍「シビックプライド」より引用。

着々と姿を変えていくハーフェンシティの成長を、常に見守ることができる展望タワーからは、開発の現場を一望することができます。画像は書籍「シビックプライド」より引用。

都市のコミュニケーション・ポイント事例9つのうち、(3)ロゴ・ヴィジュアルアイデンティティ、(4)ワークショップ、(5)都市情報センターについてご紹介しました。PART4では、(6)フード・グッズ、(7)フェスティバル・イベントについて取り上げます。次回記事もぜひご覧ください。

PART4はこちら

PART5(最終回)はこちら

(2016/09/19)

著者プロフィール

funahashi taku

funahashi taku

空き家を魅力的な「まちのコンテンツ」に生まれ変わらせたり、社会的課題解決のツールとして活用したい、そんな観点から書いているブログ「空き家グッド」を運営しています。2015年6月からはMAD Cityのウェブメディア「madcity.jp」に記事をちょくちょく寄稿しています。
http://akiya123.hatenablog.com/

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