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ブリストルの路上マップパネル。情報の取捨選択、グラフィック、プロダクト、街中の配置にまで、「わかりやすさ」の考え方が貫かれています。

まちに関わる人たちのシビックプライドを高める!都市のコミュニケーション・ポイント事例まとめ9選(PART5・最終回)

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(8)公共空間

良くデザインされ、多くの人々に使いこなされている公共空間は、「この都市はあなたを受け入れている」というメッセージを自然と発します。代表例はボルドーとブリストルです。まずはボルドーから見ていきましょう。

ワインで世界的に有名なボルドー。戦後48年間にわたって市政を率いていたのは、元首相のジャック・シャバン・デルマスでした。この政権の末期には新しい風が吹き込むことなく、ボルドーは「眠れる都市」として静かにたたずんでいました。ボルドーの停滞ムードが変わったのは1995年、後に首相も務めることになるアラン・ジュペが市長に就任してから。LRT(ライトレールトランジット)導入をはじめとする公共交通整備や、「市民に開かれた公共空間」を唱えて、ガロンヌ川沿いのフェンスを撤去したり、都市の中に市民がくつろげる場、楽しめる場を増やしていきました。

バーやレストランがひしめく小さな広場がいくつもあるボルドーの街並み。

バーやレストランがひしめく小さな広場がいくつもあるボルドーの街並み。(画像引用元)

アラン・ジュペが進めた公共空間政策は、ボルドー市の中心を流れるガロンヌ河岸の再開発を軸に行われました。歴史的建造物に彩られ、旧市街を有する左岸と、全く新しいエリアで現代風の建物や庭園が並ぶ右岸。この両岸に広大な公共空間を作ろうという「2つの岸プロジェクト」が目立った取り組みです。代表的な成果として、ボルドーの象徴的な場所であるブルス広場の目の前に広がる「水の鏡」があります。ここは時間により霧が噴霧されたり、薄く水が張られたりして、子供も大人も楽しめる公共空間です。夜になるとライトアップされた川沿いの建物やLRTが水面に映りこんで、ロマンチックな光景になります。

以前は人の立ち入ることができない倉庫街や駐車場でした。今は多くの人々が集まる場所に。

ブラス広場の前に広がる「水の鏡」には多くの人々が集う場所に。ここは以前、人の立ち入ることができない倉庫街や駐車場でした。(画像引用元)

市民と都市との距離を縮めることで、初めて市民は都市に積極的に関わろうとするし、自らの都市を愛し始めるようになる。そう考えたアラン・ジュペは、ボルドーの都市再生の主役が市民であることを示すために、公共空間を重要視したのです。

「私たちはボルドーで生まれ、ボルドーで人生の喜びを見出し、ボルドーで死んで行く、疑いもなくここは私たちの人生の舞台であり、私たちが愛すべき街だ。朝の雨に洗われ、青空にうきたつジロンド島のモニュメント、黄土色のガロンヌ川とその背景に見える右岸の木々と建物、夜の観覧車と造船所、そして灰色のクレーンまだひっそりとしている明け方のペイベイ、ベウラン広場これら全ての理由によって、そしてこれら以外の全ての理由によって私たちはボルドーを愛すべきなのだ。」

シビックプライド−都市のコミュニケーションをデザインする(宣伝会議Business Books)93ページから引用。

整備されたガロンヌ川沿いの公共空間では、「ワイン祭」や「川の祭」といったフェスティバルが開催されています。

整備されたガロンヌ川沿いの公共空間では、「ワイン祭」や「川の祭」といったフェスティバルが開催されています。画像は書籍「シビックプライド」より引用。

次はブリストルです。ブリストルはイギリス西南部の地域で最も人口の多い港湾都市。第二次世界大戦中にドイツ空軍の激しい爆撃を受け、中世の市壁やジョージ王朝の街並みの多くを失いました。その後の復興の過程で、中心市街地が分断されてしまい、「わかりにくい」「歩行者に不親切な」都市が形成されてしまいました。そこで1998年からスタートしたのが「ブリストル・レジブル・シティ(わかりやすい都市ブリストル)」というプロジェクト。まちのイメージカラー「ブリストル・ブルー」と、オリジナルフォント「トランジット」をデザインし、携帯用歩行者マップや路上マップパネル、都市のサインシステムなどに統一的に使用しました。

統一された色とフォントは、都市をわかりやすくするためのデザインです。

統一された色とフォントは、都市をわかりやすくするためのデザインです。(画像引用元)

1993年にブリストル市の都市計画課は、中心市街地の分断に対する危機感から歩行者ネットワークについて報告書をまとめました。この報告書をもとに、1996年頃から2人の都市計画課職員が「ブリストル・レジブル・シティ」のアイデアを温め始めます。彼らは「City ID」という当時ブリストル市に勤務していた都市デザインのコンサルタント会社の職員らと、将来のブリストルの姿について議論を交わし、プロジェクトの構想を立て、市役所の各部署や政治家に対してプレゼンテーションを繰り返し、少しずつ理解を得ていったのです。そして約2年をかけて「ブリストル・レジブル・シティ」は市のプロジェクトとして認めらたのでした。

ブリストルの路上マップパネル。情報の取捨選択、グラフィック、プロダクト、街中の配置にまで、「わかりやすさ」の考え方が貫かれています。

ブリストルの路上マップパネル。情報の取捨選択、グラフィック、プロダクト、街中の配置にまで、「わかりやすさ」の考え方が貫かれています。(画像引用元)

ハコモノ的な大規模公共事業に頼るのではなく、”デザイン”や”情報”の力を使ったユニークなプロジェクトが生まれた背景には、多数の小さな政治勢力が拮抗し、強いリーダーシップが生じにくいブリストルの政治的土壌があります。また、”ブリストリアン”と呼ばれる市民気質によるところも大きいようです。都市を一気に更新するのではなく、公共空間に小規模なデザインを効果的に盛り込んでいくアプローチがとられたというわけです。

(9)都市景観・建築

都市全体のヴィジュアルイメージに決定的な影響を及ぼす都市景観や建築。視覚的・体験的なコミュニケーションの視点から、都市のアイデンティティを形成することが求められます。代表例は、巨大彫刻、橋、現代美術館、音楽ホールによって都市再生を果たした双子都市、ニューキャッスル/ゲーツヘッドです。

ニューキャッスルはタイン川を隔てて隣接するゲイツヘッドとともに、豊富な石炭により19世紀、造船や軍需産業などが栄え、イギリス重工業の中心地でした。しかし、第二次世界大戦以降に衰退、1972年には炭鉱も閉山し、産業を失った結果、停滞に苦しめられるように。そこで両市の再生の転機となったのが、1990年代前半にスタートした政府の文化助成機関「ノーザン・アーツ」主導による文化主導の都市再生でした。炭鉱の跡地に建てられたイギリス最大の彫刻「エンジェル・オブ・ザ・ノース」(1998年)、可動歩行者橋の「ミレニアム・ブリッジ」(2001)、現代美術センター「バルティック」(2002年)、音楽ホール「ザ・セージ」(2004)が次々と誕生し、それらが立ち並ぶタイン川沿いの都市景観は一変しました。2005年に両市の人気はイギリス国内4位に上昇、文化・観光産業に関する雇用数の増加、不動産価値の向上と、イメージアップや経済効果といった具体的な成果につながっているのが注目されます。

高さ20m、両翼部分54mの幅を誇る鋼鉄製の天使をモチーフとした巨大彫刻「エンジェル・オブ・ザ・ノース」。ニューキャッスル/ゲイツヘッドの再生のシンボルに。

高さ20m、両翼部分54mの幅を誇る鋼鉄製の天使をモチーフとした巨大彫刻「エンジェル・オブ・ザ・ノース」。ニューキャッスル/ゲイツヘッドの再生のシンボルに。(画像引用元)

「エンジェル・オブ・ザ・ノース」はおよそ2億円の工費。田園風景への影響、巨大さへの反発など、計画は当初、非難の的でした。市民の8割が反対し、地元の新聞も厳しい意見を書き立てました。しかし、ゲイツヘッド市による50回を超える教育プログラムや、作者である現代彫刻家アントニー・ゴームリー自身による市民参加型の彫刻ワークショップを行って、プロジェクトの意義を少しずつ浸透させていったのです。そして完成した「エンジェル・オブ・ザ・ノース」は、炭鉱と造船という歴史への誇り、変化への意思をコンセプトとしていること、この像がまちの神話を体現するものであるこが人々に理解され、今度は8割の市民が支持、新聞の論調も支持へ回ったのでした。

ニューキャッスルとゲイツヘッドをつなぐ「ミレニアム・ブリッジ」。船を通すために回転する光景は、タイン川の名物になっています。

ニューキャッスルとゲイツヘッドをつなぐ「ミレニアム・ブリッジ」。船を通すために回転する光景は、タイン川の名物になっています。(画像引用元)

イギリスでは、都市計画や建築が実現していくプロセスを「デリバリー」という言葉で表現することがあります。「竣工」や「オープン」といった作り手側目線ではなく、実現した都市や建築を生きていく人々に、それが生まれるに至ったコンセプトを含めて届けようという、明確な意思を持った言い方です。つまり、都市計画や建築はメディアであるということ。都市計画や建築が人々にデリバリーされることで、シビックプライドが内面化していくのです。

最後に

全5回シリーズで掲載しました、シビックプライドまとめも今回がラストです。それぞれの都市の課題や培ってきた歴史、文化を踏まえた都市のコミュニケーション・ポイントは、どれも興味深かったです。特に、アムステルダムの「I amsterdam」やブリストルの「ブルストル・レジブル・シティ」は、ロゴや都市のサインシステムといった”情報をデザインする”という手法は個人的に印象的でした。都市景観や建築といったハード・ハコモノ系に頼らないところにクリエイティビティを感じました。他にも、ロンドンの「オープン・ハウス・ウィークエンド」も都市を体感できる面白い取り組みで、ぜひ日本でも応用できないだろうかと思いました。

(2016/10/10)

著者プロフィール

funahashi taku

funahashi taku

空き家を魅力的な「まちのコンテンツ」に生まれ変わらせたり、社会的課題解決のツールとして活用したい、そんな観点から書いているブログ「空き家グッド」を運営しています。2015年6月からはMAD Cityのウェブメディア「madcity.jp」に記事をちょくちょく寄稿しています。
http://akiya123.hatenablog.com/

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