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インターンを終えて 武田秀星 前編 「DIY改装を実際に体験して得たものとは?」

「住み手が自らの家づくりにもっと積極的に関われるようになれないか」
「建築のハードそのものよりも、建築の使われ方がそれ以上に重要なのではないか」

そんな思いを胸にMAD Cityの運営元・株式会社まちづクリエイティブのインターンに応募してくれたのは、東京大学大学院工学系研究科建築学専攻修士2年の武田秀星さん。2016年10月末から4月中旬まで約5ヶ月間インターンとして、ミーティングやイベントへの参加や準備といった日常業務のほか、MAD City Galleryの改装にも携わりました。今回は、武田さんの建築に対する思いやDIYやまちづくりに興味を持った経緯、DIY改装を体験してみての感想などをMAD Cityスタッフの斉藤が伺いました。

建築への愛着を持っている人って意外と少ない

斉藤 まず武田さんの自己紹介からお願いします。

武田 鎌倉出身の23歳で現在、東京大学大学院建築学専攻で勉強しています。建築を勉強している中で近年、住宅や建築に対する愛着を持っている人って思った以上に少ないんだな、と感じるようになりました。空き家が増えていることとか、建築を仕事にしている人たちの中でも建築を機械的に捉えていたりするな、とか。それじゃあ建築にもっと愛着を持てるようにするにはどうすればいいのか考えたときに、DIYの発想や手法を活かすことが有効なのかなと思ったんです。

建築に対する愛着を持つための手段としてDIYに注目している武田さん。

建築に対する愛着を持つための手段としてDIYに注目している武田さん。

斉藤 建築に対する愛着を育てる発想や手法としてDIYに注目しているんだね。大学院ではどんな勉強をしているの?

武田 岩手県の被災地で復興住宅の設計に参加していました。復興住宅は仮設住宅なのに住みこなしがされているというか、狭いのにちょっとした工夫があったりDIYしたりして面白いんです。現在はこの復興住宅を解体して、新しいケア付き高齢者住宅を作ろうという計画が進んでいます。あとは昨年夏に、2013年に土砂災害によって被災した伊豆大島に行ってワークショップをやったりしました。

DIYとまちづくり

斉藤 次にMAD City(まちづクリエイティブ)に興味を持ったきっかけを教えてください。

武田 大学4年の最初の頃、卒論を書くためにDIYについて色々調べていた時からMAD Cityのことは気になっていました。でも結局そのときは時間の都合もあって、先にアポがとれた新築のハーフビルドを扱っている会社への取材をもとに書いたんです。その後、大学院に進学し就職活動について考え出した頃、建築のハードそのものよりも建築の使われ方がより重要だと思ったんです。今は単に設計をするというよりも建築が住まい手にどう使われて、それがどうまちの魅力につながるかという視点が重要だと思っています。

斉藤 建築を勉強している学生はハードのことをメインに考えている人が多いのかなと思うけど、使われ方とか、そのまちの中でどんな人が住むのかということにも関心を持ったんだね。

武田 そもそも建築を学び始めた理由は、建築が与える人への影響力の強さを感じたからなんです。でも人に影響を与えるのは建築そのものだけじゃなく、使われ方のデザインも同じかそれ以上に重要だなと思い始めて。建築の使われ方を決めてからでないと建築を作ることはできないな、と。
DIYとまちづくり、この2つの関心が合致したのがMAD Cityの取り組みで、「DIYによってまちの力を高める」みたいな取り組みだとウェブサイトなどから自分なりに解釈していました。ちょうど岩手の復興住宅の研究が落ち着いてきて何かやろうと思ってきた昨年10月、まちづくりの現場とはどのようなものなのか勉強しつつ、DIY関連で次の研究をしていく上での視点みたいなものが見つかればいいなと考えインターンに応募しました。

建築の使われ方をどうデザインするか

斉藤 最近の消費のトレンドとして、モノからコトへっていう流れがあるけれど、建築もハードから中身のほうに比重が移っているよね。

武田 ハードだけだと差別化できないし、売れない時代になってきたのが大きいんじゃないかな。使われ方のデザインとか、新しいライフスタイルに対応するとか、ソフト面を売りにしていくことを企業が作り出したんじゃないかなと思います。

斉藤 そうだとすると、新築庭付き一戸建てをゴールとするひとつの理想が疑われて、中古ストックを流通促進していこうっていう流れが生まれたのはいつくらいからで、どんなきっかけなんだろう?

武田 確かに空き家問題がよくニュースになっていますが、まだまだ住宅市場は新築中心ですよね。ですが国土交通省が「中古住宅の流通促進・活用に関する研究会」を立ち上げたり、総務省から「平成25年住宅・土地統計調査」の結果が公表されて、空き家が全国に約820万戸、約7戸に1戸が空き家、ってことがマスメディアで喧伝されたり、後はリノベーションやDIYに対する意識が高まってきていることなどを背景に、住宅市場は少しずつですが新築から中古へシフトしてきているとは思います。

ハードだけでなく、建ててからの使われ方のデザイン、既に建っているものをどう使うかまで考えることが最近の建築には求められています。

ハードだけでなく、建ててからの使われ方のデザイン、既に建っているものをどう使うかまで考えることが最近の建築には求められています。

斉藤 なるほど。学部生時代から建築という分野が過渡期にあると実感していたのかな?

武田 そう言われるとそうかもしれません。例えば、大学の先生自身が設計課題を結構コロコロ変えたりする印象を受けたりしていて、先生のほうでも建築の教え方を試行錯誤していたのではないかと思います。ハードをどうこうするというよりも、その空間を使う人や住む人のライフスタイルに対して建築はどう対応するか、みたいな方向に論点が移ってきたと思います。

斉藤 さらに遡ってみるけど、大学に入学する際に建築に興味持ったきっかけは何だったの?

武田 確か品川だったと思いますが、高校時代に高い建物がびっしり建っているのを見てすごい技術だなと思ったのが大きいですね。

斉藤  建築のハードそのものへの興味から始まって、現在は建築の使われ方をどうデザインするかやまちづくりに関心が移ってきたんだね。

DIY改装を体験

斉藤 では次はインターン期間中の仕事内容について教えて下さい。

武田 日常的にはミーティングやイベントへの参加と準備、PRチラシの作成といったところです。他には松戸市主催のフューチャーセッションに参加したり、最後の方は2件のDIY改装に関わりました。

斉藤 2件のDIY改装を実際に体験したんですね。それぞれどんな物件ですか?

武田 一つはMAD Cityの事務所(MAD City Gallery)の1階を改装して、MAD Cityのアーティストたちが展示を行えるギャラリーにしたこと。もう一つは松戸市で民泊事業を展開している入居企業(LED TOKYO株式会社)と共に古民家物件を改装し、宿泊者や観光客を対象とした案内所機能を持ったコミュニティ施設にするという取り組みです。特にMAD Cityの事務所のほうをメインにDIY改装を手伝いました。壁塗りが思った以上に大変でしたね。

壁塗りに苦戦する武田さん。

壁塗りに苦戦する武田さん。

斉藤 MAD Cityの事務所は今までも「MAD City Gallery」って名前だったけど、実際にギャラリーにはなっていないところがあって。今回、本格的にギャラリーに改装するきっかけは2つあります。一つはMAD Cityにアーティストが集積してきて、みんなそれぞれ作品を制作しているけれど発表場所が無く、欲しいなっていうニーズが前々からあったということ。二つ目はエコ回収をはじめとする循環型物流を行っているエコランドを展開されている株式会社ウインローダーさんから協賛いただいてプロジェクトを行うことになったことです。
段階を踏んでいたり、材料がそろったからやるという発想は、ある種DIY的なのかな。必要に迫られてやったという感じで、全部工務店にお願いすることもできたけど、出来る限りDIYで改装したよね。専門的な技術が必要な天井を抜くとか、電気配線とかはMAD Cityパートナーの木村建造さんにお願いしました。あと今回のDIY改装はMAD Cityの入居者さんの中で複数の方が手伝ってくれたんだよね。

武田 コミュニティづくりが身を結んだということですかね。でもなんで入居者さんは手伝ってくれたんですかね。ちょっとまだ不思議な感覚もあって。

斉藤 たぶん理由はいくつかあって、まず、ご自身が今度DIYするときの参考にしたいってこと。他には単純にDIY好きってこともあるかな。さらに、DIY改装を手伝ってくれた入居者さんは、出来上がったMAD City Galleryで優先的に展示できる、という提示もあったので、そこに惹かれた方も居たかもしれません。DIY改装の経験と、そのDIY改装で誕生した場所を使えるっていうのは、なかなか他にないんじゃないかな。武田君は実際に手を動かしてみてどうでした?

改装を手伝ってくれた大工さんに教えてもらいながらDIY。

改装を手伝ってくれた大工さんに教えてもらいながらDIY。

武田 大変の一言ですね。壁塗りにまさか一日かかるとは……、っていうレベルです。でも入居者さんや関係者の方と話しながらの作業は楽しかったです。実際にやってみて壁塗り一つとっても、思っていたよりDIYってハードだなと思いました。塗料の塗り方や塗っていく順番とか、初めてやってみてわかりましたし。

斉藤 DIY改装を手伝ってくれた人同士で初めましての人も多かったけど、いろんな話題で盛り上がりながら作業してましたね。

武田 喋りは入居者の画家さんが回してくれましたね。DIY改装の共同作業ってコミュニケーションツールになることを実感しました。話すきっかけがたくさん出来るっていうか。

斉藤 そうだね。それぞれの個性や得意分野が見えてきて、自然と役割分担ができたりとかね。

斉藤 DIY改装の後には、MAD City在住アーティストの西岳拡貴さんの展示(「何が価値を決定するのか、について何を知っているのか」)にも立ち会いましたね。作品の制作過程に関わってアート作品の一部にもなったし、制作された服を着るモデルも務めたしね。

武田 今思えばハードもソフトもどっちもやった!

廃品回収された150着の古着をリメイクして作られた服を着て、モデルとしてアート作品の中の人にもなりました。左端が武田。

廃品回収された150着の古着をリメイクして作られた服を着て、モデルとして自らアート作品の中の人にもなりました。左端が武田。

斉藤 こういう経験をもっと前にやっておけば卒論ももっと充実したと思う?

武田 そうですね、もっと当事者意識が持てたかもしれません。卒論は結構、供給者目線の話になってしまって、DIYを実践する居住者の目線が不足していたんじゃないかなと思います。

斉藤 DIYの楽しさはどこにあるんだろう?

武田 ちょっとずつできていく感じが特に面白かったです。それに、実際にその空間が利用されている光景を見ると結構な達成感を得られたというのもあります。

斉藤 それは愛着がわくってことにも繋がってる?

武田 DIYした空間を使ってて、ちょっと汚れて黒くなってくると気になります。

斉藤 どうしても使っていると汚れてくるからね。でも一度DIYした場所だとまた自分できれいにしようという発想が出るし、経験がある分やってみようというときのハードルがぐっと下がる。そう思えるようになったなら、DIYに関わった意味があるのかもね。

(後編に続きます)

著者プロフィール

funahashi taku

funahashi taku

空き家を魅力的な「まちのコンテンツ」に生まれ変わらせたり、社会的課題解決のツールとして活用したい、そんな観点から書いているブログ「空き家グッド」を運営しています。2015年6月からはMAD Cityのウェブメディア「madcity.jp」に記事をちょくちょく寄稿しています。
http://akiya123.hatenablog.com/

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