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グラフィックデザイナーとしても活躍されているアルタイル店長の佐々木さん。

”好きなことで食べていく”ために必要なたった一つのこと!工作室アルタイル代表・佐々木のぞみさんに聴いてみた

松戸にあるデジタルDIYものづくりスペース「工作室アルタイル」代表の佐々木のぞみさんへのインタビュー第1弾記事と、メイカーズムーブメントについて簡単にまとめた記事はこちらです。


前回記事では、工作室アルタイルでつくられている作品や使われているデジタル工作機械、立ち上げにいたった経緯などについてふれました。今回は、工作室アルタイル命名の由来や、会員さんはどんな方がいるのかに加え、気になるお金まわりのことなどをお聴きしてきました!

「工作室アルタイル」命名の由来は?

−そもそも「アルタイル」という店名の由来は何でしょうか?アルタイルとは星の名前のようですが。

佐々木のぞみさん(以下、佐々木さん):はい。アルタイルの星が持つ意味は「勇気」と「大胆」です。ものづくりにぴったりの意味を持つ一等星なんですよ。

−なるほど。何でも自分で作ってみよう!というDIY精神を象徴する星なんですね。

佐々木さん:あと、絵本作家のたむらしげる原作の絵本「ファンタスマゴリア」に出てくる「アルタイルの酒場」(星人間のたまり場)が好きで、そこからもインスパイアされています。

幻想的な惑星ファンタスマゴリアに出てくるアルタイルの酒場。

幻想的な惑星ファンタスマゴリアに出てくるアルタイルの酒場。

日本一周ノマドワークの旅

−なんとも素敵ですねぇ。ところで佐々木さんは桑沢デザイン研究所を卒業後、すぐ工作室アルタイル(以下、アルタイル)を立ち上げられたんですか?

佐々木さん:いえ、まずは印刷会社に2年間勤めていました。でもとても忙しくて、土日も無いし、毎日休みなく働いていました。その多忙な時期に反動で旅行雑誌などをよく見ていて、いつか行きたいなぁと思っていて…。それで日本一周するために印刷会社を辞めて、ちょうど震災があった年の秋頃から3ヶ月間、国内の行きたい場所を巡る旅をしました。

−日本一周のとき、お仕事はどうされていたんですか?

佐々木さん:印刷会社を辞めてからは、グラフィックデザイナーとして独立していたので、パソコンを持ち歩いて仕事しながら日本一周していました。

−どんなところに行かれたんですか?

佐々木さん:太平洋側沿いを西に向かい、ぐるっと山陰方面に回り北海道まで北上して戻ってきました。鈍行列車やフェリーなどを使って、ゲストハウスやバックパッカー向けの安宿を渡り歩きました。静岡ではレトロモダンなデザインが魅力な芦沢銈介美術館と、隣接している登呂遺跡へ、岐阜では荒川修作が作った謎のテーマパーク養老天命反転地、山口では神秘的な景観を誇る秋吉台、瀬戸内海の直島、北海道では神田日勝美術館などなど、いろいろ巡りました。山陰側は食べ物も美味しかったですね。

岐阜県にある「養老天命反転地」は1995年に開園。作品の中を回遊し体験することで作品を鑑賞することができるように設計されています。そのユニークで刺激的なコンセプトから、開園当初より多くの観光客でにぎわっているそう。

岐阜県にある「養老天命反転地」は1995年に開園。作品の中を回遊し体験することで作品を鑑賞することができるように設計されています。そのユニークで刺激的なコンセプトから、開園当初より多くの観光客でにぎわっているそう。(画像引用元)

−本当いろいろなところに行かれたんですね!

佐々木さん:ゲストハウスでは外国人もたくさんいて、一緒に料理を作って食べたりしました。嵐山では有名な豆腐や九条ネギを使った料理を作ったり、長崎では白玉団子を作ったりしましたね。ちょうど名古屋に滞在していたときにスティーブ・ジョブスが亡くなって、そのときに泊まっていたメンバーはみんなMacのパソコンを使っていて、言葉は通じなかったですがみんな悲しんでいて、思いを共有したって感じでしたね。

若い女性から年配の男性まで様々

−アルタイルの会員さんはどんな方が多いのでしょうか?

佐々木さん:若い女性から年配の男性まで様々ですね。若い女性の場合はレーザーカッターで小物やアクセサリーを作ったり、年配の男性では金属加工やラジオや基板といった電子工作をされたり色々です。あと、美大生や建築学生が卒業制作で駆け込んでくるなんてこともあります。

工作室アルタイルは、より自由に、思い通りの制作をサポートするための工作スペース。

工作室アルタイルは、より自由に、思い通りの制作をサポートするための工作スペース。(画像引用元)

デジタル工作機械は今のところ、「所有」よりも「使用」したい人のほうが多い

−ではそろそろお金回りのことについてお聴きしたいです。個人や小規模事業者が手に入れやすくなったと言えど、レーザーカッターやUVプリンターといったデジタル工作機械はまだまだ高価ですよね?

佐々木さん:そうですね。レーザーカッター、UVプリンター共に3〜400万円台の機種を揃えています。それに加え、電動工具の購入やお店の改装費用も含めて初期投資は500万円くらいでした。

−デジタル工作機械を、個人が所有することも増えてきているのでしょうか?

佐々木さん:レーザーカッターはじめ、デジタル工作機械は確かに個人でも所有できる価格帯のモノも出てきています。しかし、得たい結果に対しての具体的なノウハウなどを共有できる点からしても、オペレーターあるいは、他の利用者がいる施設を利用した方が建設的ですね。今のところ、「所有」したい人より「使用」さえできればいい人の方が多いと思います。それに実際自宅に置くとなると、機械音と振動と匂いの問題はついてまわりますので。

−会員数はどのくらいですか?

佐々木さん:2014年7月のオープン以来、順調に会員数は増えていて、現在は100名近くの会員さんがいらっしゃいます。

−収支のバランスはいかがでしょうか?

佐々木さん:店舗営業だけでいえばトントンといったところです。貸し工房のほかに、デザインと小売の3つで事業を構成しています。

グラフィックデザイナーとしても活躍されているアルタイル店長の佐々木さん。

グラフィックデザイナーとしても活躍されているアルタイル店長の佐々木さん。

やりたいことを続けるために、利益を出すことをちゃんと意識する

−佐々木さんは現在一人でアルタイルを経営されているわけですが、20代の女性が起業、そして経営していく上で重要なポイントとは何でしょうか?

佐々木さん:20代女性の起業っていうと、意識高い新書のタイトルみたいで自分ごととは思えないですね!(笑)それは冗談として、実際私の体感としては、年齢や性別は起業と関係ないです。なので、独立にあたって性別や年齢を懸念する必要は全くないです。

−起業や独立に、性別や年齢は関係ないんですね。

佐々木さん:別に私も起業したい!っていうより、やりたいことをやるためにたまたま起業しただけですし。特にすごいことは何にもないんですよ。

−でも起業したとしても、経営していくというのはとても大変なことだと思います。やりたいことを続けるためといえど、色々乗り越えないといけない壁がたくさん出てくるんでしょうね。これだけは意識しておくべき、大事なポイントってありますか?

佐々木さん:経営していくうえで大事なポイントは、利益を出すことをちゃんと意識することですね。とかく職人気質なクリエイターはお金まわりのことに疎いです。続けていくためにはどれだけの収入があって、どれだけの支出があるのかをちゃんと把握しないといけません。シンプルなことですが、これが一番大事ではないでしょうか。

−なるほど。”好きなことで食べていく”ためには利益をちゃんと出すという、ある意味シンプル(かつ深い)なことが重要なのですね。好きなことを仕事にしたい人にとって、佐々木さんの働き方は大いに参考になると思います。

満足する前に次の目標を据える

−利益を出すことを意識する、を実践していくためにしていることは何ですか?

佐々木さん:そうですね。たとえば、事業計画書は毎年見直しています。事業計画書というのは単なる数字の予測ではなく、今後こうありたいという計画を数値化したものです。なので、見直しているポイントは、計画していたことが何割できているか、やるにはどうしたらいいか、そもそもやる必要があったかの3つです。

−事業計画書を見直すポイントは主に3つなんですね。わかりやすい。

佐々木さん:あとは、良い税理士さんとの出会いも大きなポイントかと思います。たまたまお客さんの良縁に恵まれて、一緒に会計を見てもらうことになったのがきっかけです。良い税理士の定義には、経理を全部丸投げでやってくれるとか価格が安いとか、経営者それぞれの基準があると思いますが、私のお付き合いのある税理士さんは会計で強い会社を作るということを経営者にまず理解させるところから根気よくお付き合いくださっています。

−最後に、今後のビジョンをお聴かせください。

佐々木さん:貸し工房、デザイン、小売と、マルチタスクで仕事をしていますが、どの仕事も満足する前に次の目標を据えるのが理想形といったところです。個人事業だとマルチタスクでなければやっていけないので、別にやりたいことがあっても並行して進めていけばいいし、全部叶えたらいいんです。「何か一つだけを地道に、他のことには目もくれず極めるのが一番えらい」っていう思想がずーっと日本人には横たわっていて、まあそれはそれで体現できる人は確かにすごいんですけど、自分で事業をやるのであればその思想は障害でしかないんで、その空気に巻き込まれないことが大事です。

松戸駅から徒歩約7分の「工作室アルタイル」。隣は飲食店、角地ということで騒音や匂いなど、ある程度自由が利くため、工作室やアトリエ、工房に適した物件です。

松戸駅から徒歩約7分の「工作室アルタイル」。隣は飲食店、角地ということで騒音や匂いなど、ある程度自由が利くため、工作室やアトリエ、工房に適した物件です。

工作室アルタイル

住所:〒271-0077 千葉県松戸市根本89-1
連絡先:TEL 050-7114-0439(代表:佐々木さん)
営業時間:11:00 – 20:00(最終受付19:00)
(営業スケジュールはこちらからご確認ください)
工作室アルタイル(ウェブサイト)
工作室アルタイル(Twitter)

(2016/03/28)

著者プロフィール

funahashi taku

funahashi taku

空き家を魅力的な「まちのコンテンツ」に生まれ変わらせたり、社会的課題解決のツールとして活用したい、そんな観点から書いているブログ「空き家グッド」を運営しています。2015年6月からはMAD Cityのウェブメディア「madcity.jp」に記事をちょくちょく寄稿しています。
http://akiya123.hatenablog.com/

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