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あえて今、MAD Cityから地域通貨の”いろは”を紹介するコラム vol.2

―MAD Cityでは以前、関係者が笑い話で「いつかMAD Cityの地域通貨ができたら面白いかもね?『円』じゃなくて『beer』で!」といった会話をしていたことがありました。というわけでMAD City運営に学生インターンとして関わっている高橋がこのたび、大真面目に地域通貨のことを考えるコラムを書くことになりました。―

前回の記事はこちら

2回目の今回は元祖地域通貨とも言える、カナダ発祥の事例をご紹介したいと思います。

カナダ発の地域通貨・LETSの場合

1.概要
LETS(Local Exchange Trading System)はカナダ・バンクーバーにある人口5万人の地方都市・コモックスヴァレーで、スコットランド系カナダ人のマイケル・リントンによって考案されたシステムです。コモックスヴァレーは、アメリカの空軍基地と材木業を経済基盤としていましたが、基地の撤退や80年代のカナダ全体の経済的混乱の影響で、深刻な不況に陥り、財やサービスの流通が滞ってしまいました。LETSはこうした状況を打破するための解決手段として考案されたものです。
LETSはその後、世界各地に拡がりを見せ、現在では世界2000以上の地域において導入されています。

2.導入の背景
上述のように当時のカナダ国内は不況の影響により財やサービスの流通が滞っていました。特にLETS発祥地であるコモックスヴァレーは地方であるために、状況はより深刻なものでした。
こうした状況の中で、国の経済状況に左右されずに地域内で財やサービスが循環することで地域経済の独り立ちを目指そうと、地域でのみ循環する通貨”LETS”が考案されました。創設者であるリントン氏は、この通貨の導入によって地域経済の安定化のみならず、住民同士の信頼関係の形成をも目指したと言われています。

3.LETSの仕組み
まず、事務局が参加者の口座が開設されます。参加者のスタート時の口座残高は0です。この取引は参加者同士で行われるもので、サービスを受け取った人の口座には?、サービスを提供した人の口座には+が記されます。また参加者は取引の際など、自由に他の参加者の口座残高や取引実績について知ることができます。事務費用はサービスへの対価として、参加者の口座から内部貨幣により支払われる仕組みになっています。

たとえば、AさんからBさんに対して商品やサービス(例:母親の介護)が提供されました。このとき、BさんとAさんの取引が成立します(ここでは対価を700とします)。サービスを提供したAさんの口座には+700、Bさんの口座には?700がそれぞれ記録されます。

その翌日、CさんからAさんに対して同じように商品やサービス(例:有機野菜)が提供されました(対価を300とします)。すると、Aさんの通帳には?300、Cさんの口座には+300が記録されます。さて、ここまでの取引を見てみると、Aさんの口座は+400、Bさんは?700、Cさんは+300となりますね。

このようにマイナスの発生が認められているのがLETSの特徴です。マイナスの状態にある人は、次に商品やサービスを提供することが求められ、プラスの人の場合は商品やサービスを受け取ることができます。なお、マイナス状態であっても商品やサービスの提供を受けることは可能ですが、いずれは口座の状態が0になる、つまり十分な商品やサービスを提供する必要があります。

4.どこで使えたのか
LETSはもともと個人から大企業に至るまですべてが参加可能な地域通貨のシステムを目指して考案されたものです。発祥地コモックスヴァレーでは、現在インターネットカフェ、レストラン、スーパーマーケット、雑貨店、ホテル等合わせて40以上の企業や、コモックスヴァレー周辺で活動するNPOも20団体程参加しています。一部の店では購入代金の一部を地域通貨で支払えるなど、ある程度はLETSが普及しているみたいですね。

5.システムの持続性を保つための負担
LETSを運営していく上で必要となる事務費用については、参加者が取引したモノやサービスに加えて、これらを負担しています。具体的には、取引額のうちの数%、あるいは一律で決められた額が利用状況に応じて参加者の口座から事務局に支払われます。

6.LETSの魅力と課題
LETSのシステムは、モノやサービスのやり取りを単純に記録するもので、これは参加者側にとっても、わかりやすいものであったことが成功要因の1つと考えられます。また、LETSの特徴として、特定地域においてのみ流通することを目指して設計されたために、流通範囲が小規模にとどまり、管理や運営に目が行き届きやすくシステムの質が保たれる点もあげられます。

7.調べてみてわからないこと
最初は、5.で書いた事務費用です。こちらの負担については、サービスを提供した人と提供される人、どちらも同じ額の事務費用を負担するのでしょうか? この辺りは外部からだと、あまりはっきりしない点です。
2つ目は、参加者同士の取引において、口座残高が極端にマイナスであり続ける参加者が発生した際、どうなるかです。そういうフリーライダーのような方ばかりになって、結果として残った方が口座に残ったプラスを使う宛が無くなってしまう……ということになれば参加者間の信頼関係が崩れる可能性などが考えられます。この問題を具体的にどう解決しているのかは不思議ですね。
さらに3つ目は、最初は誰もが口座残高ゼロで始まって、取引が発生すれば発生するほど事務費用が差し引かれていくのだとすれば、LETS全体の残高(流通しているプラスマイナスの合計)はどんどんマイナスになっていくはずです。極端にいえば、慣らすと参加者の口座がどんどんマイナスになるような気もしますが、一体これはどうしてるんでしょうか……。

8.今回のまとめ
ここまで紹介してきたLETSについて、大まかではありますがまとめると

  • 地域における交流が活発になるので、地域コミュニティの再生には少なからず役立つもの
  • 良くも悪くも成否の鍵は参加者のモラルにかかっている
  • ボランティアなど、市場における価値基準では評価しづらいサービスの取引が可能
  • 小規模で展開されていることもあり、地域経済にどれほどの影響をもたらすのかは不透明
  • LETSはボランティや家庭のちょっとした困りごとなど、通常では値段をつけることが難しい財やサービスを評価することができ、住民の地域における活躍の場を増やすこともできるでしょう。こういった取引が活発になることは、新しい地域コミュニティの形成に大きく役立つのではないでしょうか。

    ただしLETSがコミュニティ再生に大きな役割を果たし得る一方で、システムから離脱した者や、相互扶助が充分に果たせない参加者が出た場合、地域において村八分的な扱いを受ける恐れもあります。これを防止するための適切なマネジメントも必要だと思います。

    今回ご紹介したLETSは、数々の地域通貨の中でもかなり名の知られたものであり、国内でも同様のシステムを導入している地域がいくつかあります。というわけで次回は日本国内における事例をご紹介する予定です。
    どうぞお楽しみに!



    高橋舜|Takahashi Shun
    90年生れの大学生。
    大学では都市計画を学んでいる。

    とある人物の紹介で松戸に足を踏み入れることに。
    お気に入りは駅前のカレー屋さん。

    サムネイル画像は「おいしい画像屋さん」http://deliciousbusiness.blog.fc2.com/のものを利用しています。

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