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冨澤志帆作品「黒い太陽」

「ドローイングは筋トレだ!」現代アーティスト・冨澤志帆が語るドローイング論

現代アーティスト・冨澤志帆のステイトメント

MAD Cityの代表的物件の一つである古民家スタジオ 旧・原田米店に、現代アーティストの冨澤志帆さんがアトリエとして入居されて約1年半が経ちました。冨澤さんはドローイングという手法を軸とした作品制作に取り組まれている現代アーティストです。今回、冨澤さんの表現スタイルやドローイング論などについて取材させていただきました。

冨澤志帆さんの作品「show room」

冨澤志帆さんの作品「show room」

取材といっても、筆者は現代アートについて全く予備知識が無いので、冨澤さんのお話を咀嚼するのがとても難しい…。そこでまずは、冨澤さんの作品の内容や背景を紹介するアーティストステイトメント(作品の解説文)をご覧ください。

<理性を秤の中心に据えて>

偶有性の上に成り立つ社会に於いて、依拠できる完璧なシステムなどは存在せず、ライフスタイルの変遷に振り回され、常に自己を擦り減らし続けているのが、現代人の姿ではないでしょうか。

 

エンターテイメント・ビジネスは、否応なく楽しむ事を人に強要し、経済を循環させます。その仕組みの中で、自己は搾取され、個性は均一化されます。
その様な個性が相関性を持つ現代に於いては、今ここに在る自己を意識する事が重要です。エンターテイメントに親しんだ我々にとってその行為は、恐らく身の裂ける様な痛みを伴うでしょう。

 

私は表現の上で、人から個性という贅肉を削ぎ落とし、棒人間として提示しています。それは路傍の石と同様に、つまらない様相を呈しています。ですが、人は本来、その程度の存在だったのではないでしょうか。
同時に、個性は自己から切り離される事で、辺りの風景に溶け込み、類型を観察しようとする自意識によって再発見されます。人はその感受性を、humor(人らしさ)と呼びます。

 

社会人としての仕事は、社会に還元されます。既存の肩書きを否定した上でしかhumanとしての仕事は成せません。
そこで生まれたものは、artであると思います。

冨澤志帆さんの作品「黒い太陽」

冨澤志帆さんの作品「黒い太陽」

相関的な個性を持つ現代人

冨澤さんのドローイング作品は、”棒人間”が登場するなど、なんとも記号的なものが多いです。「個性に相関性が生まれている現代では、個性を自分でキュレーションする事ができる」と、冨澤さんは指摘します。つまり、インターネットなどを通して、”意識高い系”や”草食系男子”など、個性の作り方が示されている現代では、個性自体の独自性が意味を失い、模倣するものとしても提示されます。棒人間はそんな相関的な(他者に影響を与えるだけでなく、影響を受ける側でもある)個性を持つ現代人をモチーフにしています。

枠にはまらない発想をするときにドローイングは有効

冨澤さんは「枠にはまらない、何か違う発想をしようとするときにドローイングは有効」と指摘します。つまり描き手の内側から湧き上がるアイデアやメッセージを表出したい場合に、ドローイングは威力を発揮するというわけです。冨澤さんのTwitterではそんなドローイング作品が発信されています。

冨澤さんが書いたドローイングについてのメモ。深層意識を表層意識に顕在化させ、具体的な表現へと表出させるドローイングのプロセスを表した絵です。

冨澤さんが書いたドローイングについてのメモ。深層意識を表層意識に顕在化させ、具体的な表現へと表出させるドローイングのプロセスを表した絵です。

アーティストは、説明(イラストレーション)ではなく、モチーフを観察(デッサン)し、視点を発想(ドローイング)して主題を見出す

そして、冨澤さんのドローイング論はこちらです。

ドローイングは、ジャンルに依って定義されるものではありません。例えば、映像作家が偶然の出来事をビデオ・カメラで記録する行為も、ドローイングの一形態です。
或いは、幾何学の問題で引く、補助線にも類似点があるかもしれません。上手く引ければ、主題に対する新たな地平が拓けるのですが、的を得ないとただの落書きになってしまう。実際、数百回と行っても、全然良いものが出てこない事もあります。

 

また、ドローイング作品の鑑賞は、料理人のレシピを覗き見る様なものです。
彼らが、その都度素材を吟味し、様々な試行錯誤を重ねる様に、アーティストもまた、モチーフを観察(デッサン)し、視点を発想(ドローイング)し、主題を見出しています。
レシピは試行錯誤の痕跡です。説明書(イラストレーション)として捉えたところで、同じものは作れないでしょう。食材も違えば、調理する人も違います。
そこに見出すべきは、料理人がその素材に向き合った姿勢についてです。痕跡をなぞらえることで、我々は彼らの取り組みを追体験します。

 

美術作品に於ける完成品(仮にそういうものがあったとして)は、一連の過程を経た結果として提示されるものですが、ドローイング作品は、その経過的な特性故に、結果を宙づりにし、制作者と鑑賞者の間に、その先に続く制作への共犯関係を示唆します。

冨澤志帆さんの作品「上昇気流」

冨澤志帆さんの作品「上昇気流」

「ドローイングは筋トレだ!」

ここまで、冨澤さんの作品からドローイング論を見てきました。そこでわかったのは、ドローイングとは描き手の思いや見方がダイレクトに反映されるものであることです。つまり、何度もなんども繰り返すことで偶然に良いものが生まれます。ドローイングをし続けることで表現の回路が形成されやすくなります。まさに「ドローイングは筋トレ」なのです。これは、現代美術家の宮島達男氏も同じようなことを言っています。

コワーキングバーのスタッフとしても活躍中

冨澤さんはMAD Cityの物件の入居者さんなのですが、今年7月からリニューアルオープンしたコワーキングバーのスタッフとしても働いてもらっています(コワーキングバーは現在会員募集中です!)。最近は、コワーキングスタッフバーと称し、「絵と会話と音によるセッション」「ストリートアートと現代美術のおはなし」といったイベントを開催されました。

MAD Cityの運営施設「FANCLUB」では入居者さん主催によるイベントが多数行われています。今回ご紹介した現代アーティスト・冨澤さんの主催によるアートイベントも現在企画中です。今後の展開にご期待ください!

冨澤さんのTwitterはこちら
MAD Cityのイベントはこちら

プロフィール

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冨澤志帆

1986年生まれ/静岡県出身/東京芸術大学美術学部絵画科油画専攻卒 相関的な個性を持つ現代人を、棒人間としてイラストレートし、悲喜劇を織り交ぜたユーモラスなドローイング作品を制作、発表している。 https://twitter.com/epotommy

著者プロフィール

funahashi taku

funahashi taku

空き家を魅力的な「まちのコンテンツ」に生まれ変わらせたり、社会的課題解決のツールとして活用したい、そんな観点から書いているブログ「空き家グッド」を運営しています。2015年6月からはMAD Cityのウェブメディア「madcity.jp」に記事をちょくちょく寄稿しています。
http://akiya123.hatenablog.com/

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