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F/T17レポート 中野成樹+フランケンズ「半七半八(はんしちきどり)」|演出された町を歩く(後編)

処理する情報量が増えると、歩く速度は遅くなる

 

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ー長島さんは町を普段歩いている時から、プロジェクトリサーチ的な目線でみているのですか?

長島:観光名所とかに興味がなくて、それよりも移動の「あいだ」がやっぱり好きなんですよね。その「あいだ」をバスとか車とかで、すっ飛ばしちゃうのがすごくもったいない。有名スポットだけをピンポイントで見ていくことがおもしろくないと思っていて。それで、やたら歩く。移動の途中を、線で見ていくというか。

そういう途中の、些細なディテールがやっぱりおもしろいんです。例えば、墨田の町で見かけた古い家の勝手口と塀があって、それがどう考えても近すぎるんです。ここ開け閉めしたら立つ場所がないじゃんみたいな(笑)。そういうことがおもしろくて、どうやって暮らしてるんだろう?とか、気になるんですね。

だけど、そういうことが僕は気になるけど、普通の人たちがその場所を見てそこまで想像するかっていったらそうは思えない。一方、住人にとってはその開け閉めが当たり前の動作になっていたりする。そういうときに、例えば俳優の体がひとつあったりすると、その場所の違和感や、おもしろさが第三者にも突然わかりやすくなる。そういう意味で、ガチの生活者レベルとは違うレイヤーで町に「体」が関わるっていうことが、なんかおもしろいだろうなっていう気がするんです。

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あと去年くらいに、自分の歩くスピードがすごく落ちていることに気がついたんです。夜、駅から家へ帰る途中、ガンガン追い抜かれて行くんですよね(笑)。昔はめちゃくちゃ歩くの速かったんで、歳かなあとか思ったんですが、はたと気がつきました。これは情報処理のモードが変化してるんだと。

どういうことかというと、歩いている最中に町のディテールをやたらに見てるんですよね。見てその情報を処理しながら歩いている。すると、高解像度のディテールを処理するのは大変なので、コンピュータの処理落ちと同じように、人体も処理落ちして、だから歩く速度が落ちるんですよ、たぶん。

ー人間も処理落ちしているんですね(笑)。

長島:本当にそうだと思うんです(笑)。処理できるCPUの限界がある。屋外プロジェクトのリサーチをここ何年もやるようになって、普段の生活でも無意識にリサーチするモードで町を歩いているので、知らない間に処理落ちしてて、それで歩く速度も落ちてるって気がついたんです。そこで、町を見ないようにしてデータ処理を止めてみたんです。そうしたら、めっちゃスピードが上がって、10年前の速度が戻ってきた(笑)。あ、歳のせいじゃなかった、まだ全然いけるじゃんみたいな。

宮武:長島さんが速く歩いているの想像できない(笑)。

長島:プロジェクトのときはいつも遅いからね(笑)。4Kとか8Kどころじゃない解像度で見てるわけですからね肉眼は。

森:今年滞在したクリストフ・トラッカーというドイツ人アーティストも、PARADISE AIRから駅前のダイエーに行くまでに3時間かかったって言ってて(笑)。解像度が高すぎたのかもしれない。

宮武:普通に歩いたら3分ですからね。

長島:3時間ってすごいね、すぐそこでしょ?(笑)。言いかえると、速度を落とすだけで、相当いろんなものが見えるはずで。でも町で用事のある人たちは、目的地だけを見て、他を全部切り捨てて歩いているわけです。今回の『半七半八』でも、ナビゲーターの歩く速度で、実は解像度のコントロールをしていました。お客さんの処理能力を、町を細かく見ることに振り分けようとするんだったら、ナビゲーションのスピードを落とせばいいし、逆に「急ぎますよー」って行っちゃうと、結構見ないで行ってしまう。それからここぞというところで「立ち止まる」とかね。怖いことですけどね、実は相当コントロール出来てしまう。

町の「見え方」を演出する

 

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F/T17 まちなかパフォーマンスシリーズ 中野成樹+フランケンズ『半七半八(はんしちきどり)』
Photo:Kazuyuki Matsumoto

森:PARADISE AIRでは、アーティストが来るたびに、スタッフの誰かしらが町をツアーするんですけど、スタッフによって町での経験も違っているし、専門性も違うので、それぞれにコースが全然違っていてそれがおもしろいんですよね。その人によっての松戸の見え方、ストーリーがある。リアクションも変わってくるし。

あと、例えば江戸川に海外のアーティストを連れて行くと、「セーヌ川だね」って言ったり、「テムズ川みたい」、「セントラルパークだ」とか、その人の日常によって全然印象が違うようで。江戸川しか見ていないのに、どこかに似ているということを毎回みんなが言っている。それがすごくおもしろいですね。

長島:それは逆に言うと、セントラルパークは江戸川に似てるし、セーヌ川も江戸川に似ている(笑)。

森:たしかに(笑)。

長島:三宅島で「アトレウス家」というプロジェクトをやったときは、火山の立入禁止エリアのぎりぎりまで、みんなで歩いて登るということをやりました。その山登りの時に、体感をナビゲーションでコントロール出来るんだってわかったんです。

まだ9月の蒸し暑い時期で、先導しているパフォーマーに「風がちょっとでも吹いてきたら、立ち止まることにしよう」って指示をしてあって。そうして風が吹いてきて止まると、お客さんもなんか風を感じて、「わぁ気持ちいい」って言って。もちろんわれわれが風を吹かせてるわけじゃないんだけど、風が吹いたら止まるということを、台本に組み込んでおく。そうすると不思議な時間が出来る。

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ー逆に止まらなかったら気づかないんですね。

長島:気づかないんですよ。

宮武:そのプロジェクトには観客として参加していたんですけど、風のことはすごく印象に残っています。完全にナビゲートされていました(笑)。

長島:仕込みです(笑)。

ー松戸でも同じことをしたら風を感じるかもしれないですね。

長島:そう、だから一緒に歩くというだけで、かなりいろんなことが出来るはずで。『半七半八』の時も、原田米店の裏庭では、夕焼け雲を見せるために、僕はわざと客席の前のほうに出て、空を見たりしてたんです。

森:少しだけ意識をさせるためにですね。

宮武:でもそこで写真を撮ってるひと、すごく多かったですね。「あ、綺麗」って。

長島:コントロールというより、演出なのかな。でもそこの加減で相当見え方が変わる。たぶん町の中って、歩くだけで相当いろんなものが見えるはずなんです。今回の『半七半八』は、そこにがっつり物語本編があったわけだから、相当盛り沢山でしたよね。

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<公演概要>
フェスティバル/トーキョー17 まちなかパフォーマンスシリーズ
中野成樹+フランケンズ『半七半八(はんしちきどり)』
作・演出:中野成樹
ドラマトゥルク:長島確
原案:岡本綺堂「半七捕物帳」より
2017年10月6日(金)〜9日(月・祝)
FANCLUB(受付)、PARADAISE AIR、松戸観光案内所(FEEL MATSUDO)、葛西呉服店、古民家スタジオ旧・原田米店、江戸川河川敷

出演:竹田英司、田中佑弥、鈴鹿通儀、福田毅、洪雄大、小泉まき、斎藤淳子、北川麗、佐々木愛/道廣オリヴィエ一真、新藤みなみ、小口舞馨/スズキシロー(A.C.O.A)

移動アテンド:星茉里、宮武亜季(PARADISE AIR)

スタッフ:東彩織、水渕歩知

http://www.festival-tokyo.jp

※本記事はmadcity.jp および M.E.A.R.L の共通記事となります

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