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出張MAD Cityコラム「法政大学での講義/イノベーションのジレンマとコモン空間」
※このコラムは、MAD Cityのスタッフが他エリアに伺った際の記憶を簡単にご紹介するものです
法政大学現代福祉学部の保井美樹先生に招聘いただき、保井先生の講義にて寺井・寺田がゲスト講師を勤めてまいりました。いろいろとお話させていただいたのですが、寺井のほうで今回はじめてチャレンジした内容が、プライベート/パブリック空間の変容を「イノベーションのジレンマ」のモデルで説明してみるという試みです。まちづくりにおいては、いわゆる「公共空間」の利活用が注目されているわけですが、プライベート/パブリックの境目にある空間では何が起きているのだろう、という試案です。(最近はそういう空間に「コモン」という言葉を使うことが増えた気がします)
イノベーションのジレンマというのは、下のような図表でしばしば説明される現象です。例えばテレビゲームの世界などで、年を追うごとに3DであるとかCGであるとかといったビジュアル、さらにはゲームシステムが進歩していき、制作費が膨大になり、制作期間が長くなり、遊ぶために覚えなければいけない説明が膨大になることがあったとしましょう。その結果、高価で説明書も分厚くなり、精細な大画面で遊ぶことが求められるゲームは、確かに一部の人にとっては待望の新作かもしれません。
しかし多くのライトな客層が求めているのはスマートフォンで隙間時間に遊べるような、かつてのファミコンさながらのローテクなゲームだったりする、といったことは多くの方々に想定しやすいものだと思います。結果、これまでのゲームを改善した延長にはない、ある種のローテクゲームが市場のニーズを得ることがある。逆に言えば、これまでゲームを作り続けてきた企業がたゆまず商品開発に勤しみ、進化させたにも関わらず、その商品がオーバーテクノロジーで売れない、必要とされないことがあるわけです。
いま、都心を中心として、公共空間への規制についてしばしば注目が集まるようになりました。野球場グラウンドなどを除き、都内の公園でキャッチボールができる公園はほぼ無いということなどが驚きの声を持って語られています。(参考:東京23区内でキャッチボールができる公園ってどこにあるの?) 公共空間は少しずつ、しかし着実に、規制が厳しくなっています。もちろんプライベート空間は各自の自由が一定保障されているということですが、しかしその中間に位置するような半公共空間のスペース、例えばマンションの共用部のような空間はどうでしょうか?
上記は都内の新築マンションのセキュリティ事例です。当然のことながら、新しく高級なマンションは、以前に比べてセキュリティが大変高度に進化しています。隣に誰が住んでいるかも分からないことがしばしばのマンションにおいて、痛ましい事故や事件が起きたことも多く、このようなセキュリティの高度化は必然です。しかし上記の説明のなかにある「自分の居住階のボタンのみ押すことができる」セキュリティは、本当に私たちが求めているサービスなのでしょうか?
もしあなたが高層マンションに住んでいて、引っ越してから友人ができて、階下の友人宅に遊びに行こうとしたら……あなたはエレベーターで自分が住むマンションの外に出て、出たところで踵を返し、オートロックごしに友人に入れてくれるように頼む必要があります。(もしくは階段では階下に行けるのかもしれません。しかしあなたがもし30階に住んでいたとして、15階の友人宅に階段で行けるからと納得できるでしょうか?)
同じ建物に住む、もっとも身近な友人の家に遊びに行くために、いちど住むマンションから外に出なければいけないセキュリティは(もしくはそういったセキュリティが必要な社会は)、イノベーションのジレンマに陥っているのではないでしょうか。個人的には、エレベーターシステムをより高度に進化させ費用を家賃に転化するより、簡単で効果的なイノベーションはあるのではないかと思っていて、私たちのアソシエーションデザインの議論とも繋がっているような気がしています。
というのはお話させていただいたごく一部ですが、学生さんに「まち」というものに何らか違和感を感じていただいて、自分の頭であれこれと考えるキッカケだけでもご提供できていたらいいなと思います。学生の皆さん、たくさんのコメントや刺激を頂き、ありがとうございました!
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