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ハウスハルテンの空き家再生プログラムの一つ「家守の家(Wächterhaus)」

イケてる空き家活用事例って?(ドイツ・ライプツィヒの空き家再生の場合)

旧東ドイツの都市・ライプツィヒが直面した空き家問題

「小さな組織の未来学」というメディアに、ドイツのザクセン州にある約52万人の都市・ライプツィヒで空き家活用・再生に取り組むハウスハルテンという市民団体の事例が詳しく取り上げられています。ライプツィヒは1930年代には70万人まで人口を延ばし、産業都市としてベルリンに次ぐ人口を有する都市でした。しかし第二次大戦後は東ドイツに組み込まれると徐々に産業が衰退していきます。1989年のベルリンの壁崩壊により経済の停滞と大規模な西側への人口流出によって産業空洞化が深刻化し、人口減少と空き家増加が大きな社会的課題になりました。

中心市街地に立地するいくつかの地区では空き家率が50%を超え、市全体でも20%弱にのぼっていました。空き家の多くは東ドイツ時代からメンテナンスされずに放置され、外見も内部のインフラも目も当てられないような状況でした。こうして成長の時代を終え都市の危機に直面したライプツィヒは、欧州の「縮小都市」の代表例として知られるようになりました。
「縮小都市」ライプツィヒに学ぶ「使用価値」視点の空き家再生

当時のライプツィヒの不動産市場は完全に破綻していて、空き家をリノベーションして活用したところで投資回収することは到底不可能な状態だったそうです。ならば空き家を取り壊し、緑地にすることで周囲の住環境を向上させようと考えられましたが、中心市街地にある空き家の多くは築100年以上といったものが多く、歴史的な価値はとても高かったのです。

1990年代のライプツィヒ

1990年代のライプツィヒ。中心市街地には築100年以上の歴史的な価値の高い空き家が多くありました。(画像引用元)

不動産市場から見放された建物を救うために立ち上がったハウスハルテン

建てられてから100年以上も街と一緒に歴史を刻んできた建物は、街のアイデンティティの一つと言えます。このままでは街のアイデンティティまで破壊されてしまう、という危機感を感じた市民たちが不動産市場から見放された建物を活用し救うべく2004年に立ち上がった団体がハウスハルテンです。

2004年秋、衰退にあえぐライプツィヒの一地区であったリンデナウで「ハウスハルテン」が設立されました。地元の住民団体「リンデナウ地区協会」のメンバーが中心となり、有志の市民、行政職員、建築家らが立ち上げに参加しました。
「縮小都市」ライプツィヒに学ぶ「使用価値」視点の空き家再生

ハウスハルテンのコンセプトは「使用による保全」

ハウスハルテンは空き家所有者と使用者との間に入り、双方のメリットをうまく仲介しながら「使用による保全」というコンセプトを体現しています。ハウスハルテンのプログラムの一つである「家守の家」において使用者は家守として家を使うことで守っていく役割を担います。使用者に原状回復義務はなく、好きなように空間を改変することができます。ただし、ハウスハルテンと使用者(家守)との契約は通常の賃貸借契約ではなく使用貸借契約なので、建物が損害を受けた場合、修繕の責任は全て使用者が負います。

「ハウスハルテン」の最大の特徴は、空間を誰かに使ってもらうことで最低限のメンテナンスをしてもらうという「使用による保全」をコンセプトとしていることです。2005年に始まった「家守の家」は、通常5~10年の期限付きで空き家の暫定利用を促す「ハウスハルテン」を代表するプログラムです。
所有者は、使用者に居てもらうことで建物の維持管理費を免れ、さらに自己負担なしで建物の最低限のメンテナンスと建物への破壊行為を未然に防ぐことができます。一方使用者である「家守」は、原則家賃負担なしで、自分たちの活動や生活に使える自由な空間を得ることができます。このように、「家守の家」は所有者と使用者の双方にメリットのあるプログラムなのです。
「縮小都市」ライプツィヒに学ぶ「使用価値」視点の空き家再生

2005年に始まった「家守の家」は、通常5~10年の期限付きで空き家の暫定利用を促す「ハウスハルテン」を代表するプログラム。

2005年に始まった「家守の家(ヴェヒターハウス)」は、通常5~10年の期限付きで空き家の暫定利用を促す「ハウスハルテン」を代表するプログラム。(画像引用元)

セルフリノベーションをサポート

ハウスハルテンの設立目的は”100年以上前に建てられた歴史的価値のある空き家を破壊や劣化から守ること”でした。しかし、”安価で自由に使用・活動できる空き空間を斡旋してくれる”と認知されてきたことで若者や芸術家を中心に活用の担い手が集まってきているようです。ハウスハルテンが扱う物件はMAD Cityと同じように原状回復義務がないセルフリノベーションが可能なものばかりです。そしてこれもMAD Cityと同じように、セルフリノベーションをサポートする体制が整っています。

通常の賃貸物件では現状復帰義務があり、使い手が自分たちの好きなように改装する自由は限られています。しかし「ハウスハルテン」が仲介する物件は、自分たちで必要な空間をつくるセルフリノベーションが原則で、現状復帰義務もありません。
しかも空間づくりに必要な電動ノコギリ、インパクト、脚立、電源ドラムなどあらゆる工具を無償で貸し出していて、水道や電気工事のノウハウもハウスハルテンのメンバーである元職人から伝授してもらえます。
ハウスハルテンは新たな活動を始めたい人々に、家賃が殆どかからず自由に使える空間と工具を提供し、活動のスタートアップを強力にサポートしているのです。
サポートによって空き家に新たな価値が生まれる

ハウスハルテンの空き家再生事例が他都市にスケールアウト

「家守の家」は現在市内に20件ほどあります。「小さな組織の未来学」の連載のライターである大谷悠さんらが立ち上げた「日本の家」といった事例をはじめ、ハンバーガー店、映画館、子供の放課後の居場所、アートギャラリー、デザイン工房など、様々な事例が生まれています。「家守の家」のほかにも様々な空き家活用プログラムが行われていて、2012年末までに市内で計60軒近くの空き家が活用されました。そして行政もハウスハルテンの事例を都市政策に積極的に組み込んでいて、2009年には連邦政府建設省から表彰され、ハウスハルテンの仕組みは空き家再生の先進事例として他都市にスケールアウトしています。

2009年、連邦政府建設省の「統合的都市発展に寄与する重要な手法」として表彰され、「ハウスハルテン」はまさに空き家再生のライプツィヒモデルとなりました。
現在では他都市にも同様の取り組みが広がっていて、特に旧東ドイツに位置し、同じく人口減少と空き家問題に窮している都市であるケムニッツ、ハレ、ゲルリッツ、ツビカウなどにおいて次々と「ハウスハルテン」が設立されています。
「縮小都市」ライプツィヒに学ぶ「使用価値」視点の空き家再生

ハウスハルテンの空き家再生プログラムの一つ「家守の家(Wächterhaus)」

ハウスハルテンの空き家活用事例の一つ「家守の家(Wächterhaus)」(画像引用元)

そして人口増加、家賃上昇、普通の不動産市場が育ちつつある

2000年を境にライプツィヒでは人口が増加し始めています。住環境の改善や若者文化が育ちつつあることが要因になっています。ハウスハルテンの空き家活用の取組により若者やアーティスト、クリエイターが街に入ってくることでエリアの資産価値が上がります。ハウスハルテンは単なる空き家のコーディネート事例にとどまらず、彼ら彼女らが新しい文化事業やビジネスをスタートさせる際のサポーターとしてとても重要な役割を担っています。

「ハウスハルテン」が我々に示しているのは、都市に出現した「空き家」を「資源」として捉え、若者やアーティストの活動を呼び込み、その事業を具体的にサポートして育てることで、都市をもう一度魅力的なものにするという可能性なのです。
サポートによって空き家に新たな価値が生まれる

改装可能・原状回復不要な賃貸物件は入居者のクリエイティビティを引き出す

MAD Cityでは改装可能・原状回復不要な賃貸物件を扱うことでクリエイティブ層を誘致し、入居者の自発性を引き出してまちの活性化に取り組んでいます。MAD Cityプロジェクト開始以来、5年を経て延べ200人近いクリエイティブ層を誘致してきました。ハウスハルテン同様に、既存の不動産市場の手法とは異なるやり方で空き家を利活用しています。実はMAD Cityで扱う物件の中には家賃上昇した事例もあります。双方とも使用者・入居者の自由度を最大限尊重するとともに、彼ら彼女らのクリエイティビティを引き出すことが重要なポイントです。

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funahashi taku

funahashi taku

空き家を魅力的な「まちのコンテンツ」に生まれ変わらせたり、社会的課題解決のツールとして活用したい、そんな観点から書いているブログ「空き家グッド」を運営しています。2015年6月からはMAD Cityのウェブメディア「madcity.jp」に記事をちょくちょく寄稿しています。
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