ホーム > 連載・コラム > 教科書を読みすぎちゃう人のための起業入門1
- ローカルと起業
- 寺井
教科書を読みすぎちゃう人のための起業入門1
—架空の自治エリア「MAD City」を現実にすべく活動している、まちづクリエイティブ代表の寺井が、過去の自分のような無謀な20代に向けて送る起業入門のコラム。寺井本人が起業後に「教科書に書いてないこと」の存在を多々感じたところもあり、そういう視点からアドバイスを送ります。—
起業というとベンチャービジネス、みたいな印象がありますが、実際のところは個人事業主になるだけでも立派な起業だし、いろんなパターンがあります。おそらく多くの場合、起業というのは「サラリーマンじゃなく自分の身上で生きていく」というすごくざっくりしたことを意味してるんだと思いますが、その詳細を研究しておくほうがいいでしょう。
場合分けすると、まずいわゆるフリーランス系があります。もともと個人でも成り立ちやすい仕事というのがあって、WEBのプログラミングとか、デザインとか写真撮影とか映像とか、もっとアナログなのだとライター(記事作成)や翻訳とかがそうです。こういった仕事を個人事業主なり、設立した会社で請け負って成り立たせるわけです。
それと対極のものとして、ベンチャー経営があります。この場合は個人事業主のパターンはほぼなく、そもそも仕事内容も今までなかったものを志向することが多いです。ちょっとオーバーに言えば、新しいビジネスモデル、つまり仕組みを作ろうとする。業種は多岐に渡りますが、新たなテクノロジーに着目するか、これまで解決されて来なかった社会問題に着目するか、が多いでしょう。前者がITやバイオのベンチャーと呼ばれ、後者が最近だとソーシャルビジネス(ソーシャルベンチャー)と呼ばれます。
いま説明したフリーランスとベンチャーは、はっきり言って全然別物です。フリーランスは既存の企業の仕事を外注されて成り立つことが多い、そういう意味では既存の仕事の細分化にあたりますが、ベンチャーはその真逆で既存企業とは異なるビジネスを創り出すことを目指します。酷い言い方でいえばフリーランスは小規模な下請けです。ベンチャーは大法螺吹きです。
会社を辞めてフリーランスになりたい、という相談を受けることがあります。その理由を聞いてみると、人間関係が悩ましいとか、新しい仕事にチャレンジしたい、といった場合がある。僕なら、辞めておいたほうがいい、とアドバイスするパターンです。なぜかというと、フリーランスになったら誰も代わりに営業してくれないので、自分で営業しないと生きていけません。人間関係が苦手なら向いてません。コミュニケーション力が高くないと基本は成り立たないんです。それからフリーランスで新しい仕事にチャレンジしたらダメです。その仕事経験が少ない個人事業主に、仕事を頼みたい会社はありません。あと、朝寝がしたいなんて理由もダメです。なにせ管理してくれる人がいないので、自己管理できない人には向いていません。納期を守れなかったりして仕事を無くすのがオチです。だからフリーランスを通じて起業の場合、夢と現実が最初から噛み合わないことが多いんですね。
それからベンチャーですが、これも実際には社長(役員)をやる側と、その周囲で働く社員では状況が違います。後者は、悪く言えば大企業よりはるかに大法螺吹きで待遇が不安定で未成熟な、つまりダメ会社で働く社員でしかない、とも言える。起業というイメージと一番被るのはベンチャーの創立、つまり前者の社長業ですが、世の中の数多ある起業のうちで割合としてはかなり希少なものであって、そのノウハウは学ぶ機会が少なく、また理屈じゃないようなことも多々あるってことは最初に覚悟しておくべきです。(まあそういった情報をこのコラムで書けたらと思ってるんですが)
さてここまで、フリーランスとベンチャーは全く別物だよ、って言ってきましたが、実際はリンクしてるところがたくさんあります。まず事業的にいえば、結局、大手の下請け業務がほとんどになっているベンチャー企業がたくさんあります。仲間を募って新しいWEBサービスなんかを創りだそうとはじめるフリーランスもたくさん居ます。良くも悪くも、そのへんは実際やればやるほど横断的なわけですね。
それで一つ夢のある話をするなら、ベンチャー企業において、フリーランス意識の高い人間が社員として参画し、会社として新しいビジネスモデルを創るべく活動するなんていうのが、両者の一番よい関係性でしょう。(弊社はそれなりに、そうなってるかなと思っています。副業的にフリーランスの仕事をしているスタッフもいます) フリーランスとベンチャーが、別物でありながら、良くも悪くも似た者になれることと、ベンチャーがフリーランスにとってよい勤務先になりうること、なんとなく分かってもらえたでしょうか。
まとめると
- 起業ってフリーランスとベンチャー経営者と大きく2つあって、全然別物だよ
- フリーランスの場合、思っているより「会社員的なスキル」がたくさん必要になるよ
- ベンチャー経営はかなりマニアックな領域だよ
- フリーランスとベンチャー経営者とがタッグを組めると良いよね
まあそんなわけです。
寺井元一|motokazu TERAI
株式会社まちづクリエイティブ代表取締役。
NPO法人KOMPOSITION代表理事。
1977年、兵庫県生まれ。2001年、早稲田大学政経学部卒業。
2002年にNPO法人KOMPOSITIONを設立。
渋谷を拠点に若いアーティストやアスリートのため、活動の場や機会を提供する活動を始める。
2010年、株式会社まちづクリエイティブを設立。クリエイター層の誘致などソフト面からのまちづくり事業を行っている。
関連記事
クラウドファンドはお金を集めるだけでなく、参加のプラットフォームにもなる|地方発信のクラウドファンド「MAD City FUNDING」を立ち上げたわけ(後編)
- <こちらの記事は前編・後編に分かれています。前編はこちらをご覧ください。> 千葉県松戸駅前でMAD Cityプロジェクトを運営する株式会社まちづクリエイティブは今年6月に、MAD City独自のクラウドファンデイングサイ...more
ワンデーMAD City トークを終えて(西本千尋×ナカムラケンタ×寺井元一)
- 多くのまちづくり事例に関わってきた西本さん、「リトルトーキョー」というまちづくり(?)を始めたケンタくん、MAD Cityの寺井、のトーク。3者3様、違うまちづくりに関わっている3人で話したら、「まちづくり」の本質が見え...more
【代表寺井のまちづくり的感想文 】熊谷のNEWLANDに行ってみた。
- 妻がかつて勤務していた関係もあって、熊谷に遊びに行ってきました。その一番の目的は、大型免許の教習所跡地を活用して生まれたという商業施設、NEWLAND。デザイン系の若手クリエイティブディレクター、山本和豊さん(desse...more
教科書を読みすぎちゃう人のための起業入門6
- —架空の自治エリア「MAD City」を現実にすべく活動している、まちづクリエイティブ代表の寺井が、過去の自分のような無謀な20代に向けて送る起業入門のコラム。寺井本人が起業後に「教科書に書いてないこと」の存...more
教科書を読みすぎちゃう人のための起業入門5
- —架空の自治エリア「MAD City」を現実にすべく活動している、まちづクリエイティブ代表の寺井が、過去の自分のような無謀な20代に向けて送る起業入門のコラム。寺井本人が起業後に「教科書に書いてないこと」の存...more
教科書を読みすぎちゃう人のための起業入門4
- —架空の自治エリア「MAD City」を現実にすべく活動している、まちづクリエイティブ代表の寺井が、過去の自分のような無謀な20代に向けて送る起業入門のコラム。寺井本人が起業後に「教科書に書いてないこと」の存...more