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教科書を読みすぎちゃう人のための起業入門3
—架空の自治エリア「MAD City」を現実にすべく活動している、まちづクリエイティブ代表の寺井が、過去の自分のような無謀な20代に向けて送る起業入門のコラム。寺井本人が起業後に「教科書に書いてないこと」の存在を多々感じたところもあり、そういう視点からアドバイスを送ります。—
今回のテーマは「利益」です。利益と売上って全然別物なんですけれど、これを一緒くたにしてる学生さんとかってたくさんいると思うんです。例を出すと、テレビの情報番組で元タレントが今や成功してる女社長とか、そういう内容って時々見ますよね。
「設立わずか1年で今や年商2億円!!50人の社員とともに、渋谷・新宿など7店舗のエステサロンを経営しているギャル社長!!」これは単なる例ですけれど、こんな放送があったらどう思います?2億円、凄いなあ、と思って終わったらそれはテレビ的には思う壺です。僕とか、パッと聞いて、すごい頑張ってるんだろうけど大変だろうなー、とか思います(もちろん自分も大変だけど…とかも思うんですけど)。
なんで大変だと思うか。年商って売上なんですね。売上からいろんな経費を引いて、残るのが利益です。利益が2億円って言われたら、オォーって思いますよ。でもこの場合はあくまで売上が2億円だってことなんです。パッと聞いて事業はまだトントンぐらいじゃないかなあ、資金繰りは楽じゃないよなあ、脳内でざっくり計算してみる、それぐらいはしないと、自分でビジネスとか、たぶん無理です。
じゃあ経費がどのぐらいかかると思いますか。ちょっと妄想で考えてみましょう。まず人件費、これは簡単です。エステサロンだから、50人いる社員の多くは女性で若い方がほとんどでしょう。最低レベルの人件費を考えたら良いと思います。つまり平均の月給で手取り20万円強。ここに交通費、社会保険代とかがかかる。実際に会社負担は1人あたり月に25万円です。年間で300万円。50人いたら1.5億円です。この時点で年商2億円ってなんだったんだろう、という話です。
それから店舗の家賃まわりがどのぐらいかかるか。新宿、渋谷で接客業だから、おそらく駅にそこそこ近い繁華街でしょう。新宿だったら3丁目とか歌舞伎町の裏とか。路面じゃない高層階だとしても、家賃はそれなりに高いです。坪1.3万ぐらいはするでしょう。それで広さだけど、50人いる社員のうち8人ぐらいは本部スタッフとして、7店舗だから1店舗あたりスタッフ6人。受付に1人必要で残り5人だけど、全員が毎日来るわけじゃないから、ベッド数は4つとか。ベッドはだいたい1m×2mで2㎡ですけど、エステサロンならギチギチにできないですね。たぶんベッド1つあたり四方に1m近い余裕があるとして、10㎡は必要でしょう。4ベッドで40㎡。受付、トイレ、事務室がこれに付きます。70㎡強はかかるんじゃないでしょうか。これって24坪だから、坪1.3万なら、月の家賃は31万円。しかも礼金と仲介手数料が1ヶ月ずつかかります。よって年間で434万円です。
さらに家賃だけじゃなくて水光熱がかかります。少なくとも水道代(洗濯)、電気代はすごくかかりそうですから、月6万ぐらいは必要かな。あとはエステ器具ですが、買ったらすごく高いからリースで計算するのが良いでしょう。コピー機で月1.5万ぐらいするんだから、ベッド1つあたりで4万円ぐらいはするんじゃないでしょうか。ベッド4つで16万円。あとは雑費で月に3万ぐらいは出るでしょう。これで月間25万、年間300万円。
おまけに店舗を作る時って内装代とかかかります。居抜き(もともとエステサロンだったところをちょっといじって済ませる)もエステサロンの場合はあんまりないかもしれません。おまけにエステサロンが汚かったら話しにならない、そうなるとそこそこ内装代もかかる。坪3万円じゃさすがに済まないでしょう、5万円強とか。24坪だからざっくり125万円。
ということで店舗1つで、ここまでの数字を足すと、約860万円です。これが7店舗で0.6億円。この時点で、人件費を足すと2.1億円で利益はトントンどころかマイナスです。もちろん、設立1年なら最初から7店舗じゃなかったでしょうから、人件費も家賃もそこまでかかってないから、2.1億円もかかってないんでしょうけれど。
でも、さらに本社があって、その家賃や水光熱や、内装代やら消耗品がかかっていて、会計と法務は外注で、会社のWEBサイトをつくって、おまけに50人も若い女性がいたら常に辞める人がいて人材募集が必要。そう考えると、少なくともトントンぐらいにしかなりません。ついでに社長が気になる資金繰り的にいうと、敷金は経費じゃないけどかかりますし、かつ家賃は前払いなので常に1ヶ月分は余分にお金が必要です。もちろん社長の給料は今まで出てもきていません。つまり、それなりにお金を借りないといけません。
と、こんなことを家族団らんのリビングルームで言い出すと顰蹙なのですが、頭の中ではこういうことを考えていないと、起業なんてできないです。なぜなら、事業計画ってのを書くのと、ここまで言ってきたことを考えるのって、ほぼ同じだからです。普段ご飯を食べてるラーメン屋さんとか、遊びに行った雑貨屋さんとか、それこそカフェとか、どのぐらい利益が出てそうか、ちょっと脳内で計算する癖をつけると良いと思います。事業をやる側の人間にとっては、まず重要なのは「利益」です。
まとめると、
- 売上(年商)だけじゃなくて利益を見るべき
- 売上云々って聞いたら、利益がいくらか脳内シミュレーションする癖をつけたほうがいい
- 普段お世話になってる飲食店やら小売店やらで売上や利益を考えてみるといい
こういうことを、ちょっとした癖にするつもりでいるぐらいが良いと思います。なに、使ってるのは足し算と掛け算なので、実際は小学生レベルの算数で良い訳で。
ちなみにこんな記事もありますね。同じような内容ですけど、スターバックスのコーヒー豆の原価の割合をみてショックを受けてる場合じゃないよってことですね。
数字をきちんと読めない人がフェアトレードとか言い出すと大変なことになるかもしれない(メモ)
寺井元一|motokazu TERAI
株式会社まちづクリエイティブ代表取締役。
NPO法人KOMPOSITION代表理事。
1977年、兵庫県生まれ。2001年、早稲田大学政経学部卒業。
2002年にNPO法人KOMPOSITIONを設立。
渋谷を拠点に若いアーティストやアスリートのため、活動の場や機会を提供する活動を始める。
2010年、株式会社まちづクリエイティブを設立。クリエイター層の誘致などソフト面からのまちづくり事業を行っている。
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