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教科書を読みすぎちゃう人のための起業入門6
—架空の自治エリア「MAD City」を現実にすべく活動している、まちづクリエイティブ代表の寺井が、過去の自分のような無謀な20代に向けて送る起業入門のコラム。寺井本人が起業後に「教科書に書いてないこと」の存在を多々感じたところもあり、そういう視点からアドバイスを送ります。—
今の20代はもちろん、30代ぐらいまではインターネット世代と言っていいでしょう。ネットやPCのスキルが、遊びにも就職にも仕事にも最初から必要だったわけです。逆に言うと40代より上の方には、インターネットを仕事上の理由で仕方なく触っているだけの方もたくさんいます。今日お話するのは、そういう方々が蓄積している社長業の知恵。ごくちょっとしたことだったりするんですが、若い世代が自分で気が付かないことが多くて、そういう知恵は知っておくに越したことがないと僕は思っています。
例えば、電話番号です。起業したら多くの場合、固定電話の番号ぐらい持つんじゃないでしょうか。携帯電話の番号だけだとちょっと怪しかったり、まともな会社じゃないと思われることが多いからです。レンタルオフィスのようなサービスでも、電話番号の取得サービスがあったりしますよね。さてその電話番号を抑えるにあたって、どんなことを考えますか?僕が20代でNPO法人を起業したときは、覚えやすいよう語呂の良い番号が良いな以外には特になにも考えずに、NTT側の担当者が提示した番号から1つ選んで決定でした。
それで後年、僕の事業を応援してくださるということで、大先輩にあたる社長さんにお会いする機会がありました。名刺交換して席に座って、さてお話を……なんて思っていたら「君は商売うまくないね」なんていきなり仰られて。当たり前ですがもうビックリですよ。何でそんなことを仰ったのか伺ったら「電話番号が悪い」って仰るんですね。「商売慣れしてる奴の会社の番号なら下一桁が1のはずだからね」って言われたんです。……僕の名刺に書いてあった電話番号は、下一桁が9で終わる番号でした。
大きな会社は、固定電話を部署ごとなどで複数引くので、代表番号から連番で番号を押さえる、そうなるとだいたい代表番号は0か1番から始まるはず、と、そういうことなんです。気になったら、皆さんご存知の有名企業の電話番号、調べてみてください。おそらくほとんど、電話番号の下一桁は0か1のはずです。市役所なんて絶対に下一桁は1番です。とはいえ、電話番号の下一桁が何番でも別に良いじゃないか、そんなことで事業が成功したり失敗したりしないよ、と思う人も居ると思います。
僕も似たようなことを思ったんだけど、お話を伺うとそれなりに筋が通っている。つまり、その先輩社長が事業をはじめる時代には、名刺の社名をネットで検索したり、社長のブログを探して読んでみる、なんてことはできなかったわけですね。対面が終わったら残るのは名刺1枚。その名刺で相手のことを読み取らないといけない。住所がいかにもマンションの一室だったり、電話番号の下一桁が1以外だったら、「たいして大きな会社じゃないんだな」「そこまで気が回らない奴なんだな」って分かるってことですね。
実際は、あなたの会社の電話番号下一桁と、事業のパフォーマンスは因果関係はないでしょう。でも、取引先からみて印象が変わるなら、実際に事業に影響します。結局、仕事と売上はお客がくれるものだとしたら、たかが電話番号と放置する理由はないはず。住所なんかもそうですね、ビジネスモデルに沿った住所に会社を置いた方がいい。実際、僕はまちづくりで起業するとき、住所を「銀座」にすると決めていました(注:現在は松戸に移転しています)。まちづくりの取引先は地方の商店街などの方々。ご存知のとおりどんな田舎にも「●●銀座」があります。今までみたく渋谷じゃダメだ、銀座にしろ、とその社長に助言されたんです。
本社の住所を渋谷にしていたら、今より失敗していたかどうかは分かりません。それでも、起業してからの約2年で「ほおー、銀座に本社があるんですね」「あ、銀座の会社さんですか」と毎回のように言われていたので、意味があったんだと思います。少なくとも話のネタにはなりました。
取引先が自分より大手だったり、堅い業種だったら、相手の担当者や役員は年上のことも多いし、海千山千なり、すごく忙しい方だったりします。そういう相手はあなたの会社やブログをわざわざネットで検索してくれないでしょう。名刺のチラ見で値踏みされることだって少なくない。起業することになって、会社名を延々と考えてる人とかいると思うんです。もちろん会社名も重要です。でもそれと同じぐらい、電話番号も住所も、それ以外の細かいところも考えるべきじゃないでしょうか。
そしていちばん重要なことは、電話番号や住所に限らず細かいところをどう見られるか、自社のことを考えているかどうか。これは直接的にメリットの有無の問題ではないんです。意識の問題。社長のインタビューなどで「一番大切なのは運」「自分は運が良かった」といったコメントが出てくることがありますが、運というのは決して確率のことではないと思います。細かいところまで自分なりに考え抜く、その努力のプロセスが運という言葉で表現されているし、経営のトレーニングなんだと思うんです。
あまり論理的ではないですが、「金持ちは長財布を持たない」というのも近いところがあります。商売人ならお金を大切にする習慣を持っておくべき、紙幣を折らないようにわざわざ長財布にしていることに意味がある、ということですね。ちなみに僕は長財布は持ってないですが、財布に紙幣を入れる向きや順番にはそれなりに気を使いますね。そして街なかで紙幣をグチャグチャに財布に突っ込んでいる人を見ると、ああ、この人はお金のことを大切にしてないな、と思います。結局は自分の意識の問題なんですが、自分にとって大切なことなら、しっかり考えて行動にも反映させて習慣にしていることで、意識が育まれるんだと思います。
というわけで、まとめとしては、
こんな感じでしょうか。
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