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小屋とアトリエと住居の事例 ―アーティストが賃貸物件に求める3つのポイント―
賃貸・線路沿い・工場の2階・変わった間取り
賃貸なのに改装可能・原状回復不要という変わったお部屋を扱うMAD City不動産。今回、アトリエ・事務所用シェア物件に今年の4月から入居されている吉田あさぎさんのセルフリノベーションが一段落されたということで、事例として早速見に行かせていただきました。
こちらの物件はなかなか変わっていて(というのも、MAD City不動産が扱う物件は基本的に変わった物件が多いのですが)、新松戸駅から徒歩5分という条件は良いのですが、線路沿いかつ1階が工場という立地から騒音が激しいです。
さらに特徴的なのがこちらの間取りです。部屋は二つなのに出入口が一箇所しかなく、トイレに行くにもシャワーに行くにも、お隣の部屋を通過しないといけません。
アトリエの中にセルフビルドの小屋をつくる、きっかけはお隣さん
線路沿い・工場の2階・変わった間取り・・・。普通は誰もが敬遠するような物件ですが、アーティストやものづくりのクリエイターにとってはむしろ好都合な場合があります。入居者の吉田さんは東京芸術大学大学院に通う美大生で、木工などの作業が出来るアトリエを探していました。吉田さんの通う先端芸術表現科のキャンパスが取手ということもあり、MAD City不動産のウェブサイトもよく見てくださっていました。そして「線路沿いのシェアアトリエ(東棟)」の入居をを決めたきっかけは、アトリエの中にセルフビルドの小屋をつくってそこで生活されているお隣さんの事例が影響しています。
アトリエの中に小屋をつくってしまったお隣さんは、高校の美術の教員をされたりアーティストとしてあいちトリエンナーレ2013に出展されるなどで活躍されている西岳拡貴さんです。そんな西岳さんからは「倉庫か工場に住みたい」「アトリエ兼住居に住みたい」などとMAD Cityに賃貸物件探しのご相談をいただいていました。そして別件で、吉田さんの前の入居者であるクラフトユニットの「cLab」の橋本翼さんたち方からは「金槌で鉄を叩く作業をしても怒られない場所を探している」というご相談をいただいていました。つまり西岳さんは「住めそうな倉庫」を、橋本さんたちは「音や振動を許容してくれる場所」を求めていました。この両者のニーズを満たす物件としてご紹介したのが、線路沿いのシェアアトリエだったわけです。
詳しい経緯はこちらの記事が詳しいのでご覧ください。
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吉田さんのセルフビルド小屋を見せていただきました
西岳さんのセルフビルドの小屋をウェブサイトで見て、魅力を感じていたという吉田さん。そして4月から入居され、西岳さんと同じようにセルフビルド小屋をつくられました。ベニヤやツーバイフォーといった材料を買って、工具も自前のものを使ってDIYに取り組まれています。寸法や工法などは西岳さんからのアドバイスが役に立ったそうです。
小屋の中も入らせてもらいました。クーラーも最近設置したとか。この天井の上にベッドがあります。
ハシゴもDIYで作られました。ロフトはとても狭いですが、寝室として吉田さんのお気に入りの空間です。
小屋の制作過程は吉田さんのツイッターを追うとわかります。今もセルフビルドの試行錯誤は続いています。これからどんどん暑くなる季節なので暑さ対策は重要です。
秘密基地感出てきた。あと、屋根つけて、内装整えたらってとこです。来週でとりあえず完成ですかね。冷房のために急いだのに、冷房のいらない日々が続く… pic.twitter.com/G3nN9PH5uS
— Asagi Yoshida (@color_asagi) 2015, 6月 11
現在、大学院を休学中の吉田さんは将来の自分にとっての専門性を追求するため、テレビ番組で使う小道具などを作る会社で働きつつ、日々、ご自身の表現や創作活動の幅を広げようと取り組んでいらっしゃいます。吉田さんのウェブサイトはこちらをご覧ください。
吉田さんは2014年3月に個展「永劫回帰」を北鎌倉明月荘で行いました。吉田さんの作品の中で著者は「住むこと 寝ること 移動すること」シリーズにインスピレーションを感じました。
「広さと価格」お部屋の広さと価格の安さはアドバンテージ
普通の感覚ならば絶対選ばないような線路沿い・工場の2階・変わった間取りといった賃貸物件を、西岳さんや橋本さん、そして吉田さんといったアーティストたちが生活と制作の拠点としているのか、その理由を3つのポイントに整理したいと思います。一つ目のポイントは「広さと価格のバランス」です。吉田さんのお部屋の間取りはワンルームで面積は41.75㎡ですからかなり広いです(一人暮らしのワンルームや1Kタイプのお部屋の25㎡前後が多い)。家賃のお値段は公表できませんがワンルームの周辺相場と同程度とのことです。つまり、同じ価格でかなり広い。これは大きなアドバンテージです。
「余白」アーティストは自由度の高い空間を求める
二つ目のポイントは「余白」です。吉田さんへの取材の際に、たまたま帰宅されていた西岳さんにお話を聞けたたのですが、「みんな(アーティストは)自由度のある空間を求めている」ということをおっしゃっていました。これはつまりアーティストは、ちょっと不便でも、改装可能だったり、音や振動もある程度は許容されている、クリエイティビティを具現化できる余地や余白のある空間を求める、ということだと思います。もう少し俯瞰して見ると、普通だったら敬遠される線路沿い・工場の2階・変わった間取りといった賃貸物件でも条件や捉え方を組み替えること(つまり編集し直すこと)で、物件のポテンシャルを顕在化させることが可能になります。
「シェア」モノや技術、知的財産を交換できる環境
最後のポイントは「シェア」です。吉田さんは小屋制作にあたり、西岳さんがつくった小屋の寸法などを参考にしたそうです。さらに、線路沿いのシェアアトリエ(東棟)の初代入居者である橋本さんたちもDIY作業にあたって西岳さんのアドバイスが大きな力になっていたそうです。そして西岳さんも、橋本さんたちの工具を借りたりしたそう。お隣同志、お互いに助け合う関係性が出来ていることが重要です。まちづクリエイティブが追求しているアソシエーションデザインを、このアトリエの住民はすでに生み出しているように思われます。
例えば、橋本さんたちはアトリエを借りてから初めてDIYにチャレンジしたため、当初は机がグラグラしてしまったりとうまく作れなかったのだそう。そんなとき「足と足の間に一本、柱をつけると全然違うよ」との西岳さんのアドバイスで、解決したそうです。そんな西岳さんは工具を購入するときに「実はお隣りにあるものは買わないことにしている」と笑います。壁面の棚も、橋本さんたちの棚からヒントを得てつくったそうで、自然と助けたり、助けてもらったりという関係が生まれているようです。
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MAD Cityが取り組む暮らしのサポート
千葉県松戸駅前のMAD Cityエリア内では、改装可能な賃貸物件・売買物件など個性的なお部屋をご案内するにあたり、本コラムのような「変わった物件」をご紹介しているほか、さまざまな住民向けのサポートを行っています。ぜひご覧になってください。
著者プロフィール
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funahashi taku
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空き家を魅力的な「まちのコンテンツ」に生まれ変わらせたり、社会的課題解決のツールとして活用したい、そんな観点から書いているブログ「空き家グッド」を運営しています。2015年6月からはMAD Cityのウェブメディア「madcity.jp」に記事をちょくちょく寄稿しています。
http://akiya123.hatenablog.com/
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