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松戸のアートスペース「mcg21xoxo」が提示する、ポストホワイトキューブ時代の展示像 #2

株式会社まちづクリエイティブの本拠地・MAD Cityこと千葉県松戸市。ウィズコロナ時代の今、その町に新たなアートスペースが誕生した。若きアーティスト・taka kono氏が中心となって立ち上げられた「mcg21xoxo」だ。2021年1月より約半年間に渡り、連続企画展を開催中。文字通りスケルトンの状態からスタートを切るこの場所が提示する新しいアートのあり方とは、一体どのようなものなのか。

前回の記事ではギャラリーの成り立ちやコンセプトを紹介。今回も引き続き、ディレクションを務めるtaka kono氏とまちづクリエイティブ代表の寺井元一氏に話を伺い、連続企画展も折り返しを迎えたタイミングで、スペースとしての手応えや今後の展望を語ってもらった。

Text:Haruya Nakajima
Photo:Takashi Kuraya
Edit:Shun Takeda

「damp plosive roam」展とバックヤードから生まれた対話

「この展示は僕の理想像に近いですね」と、taka konoさんは語る。

松戸駅から徒歩4分ほど、グラフィティの描かれた根本壁画通り沿いにmcg21xoxoは依然として佇んでいた。開催されているのは、鈴木操、髙橋銑、原田裕規による3人展「damp plosive roam」。相変わらずほの暗い空間に、作品がぼんやりと浮き上がっている。

天井近い梁には、原田裕規のデジタルコラージュされたフォト。足元には鈴木操による、骨のような造形物に膨らんだ風船がはめ込まれた、可塑的な彫刻が転がっている。部屋の奥からは、髙橋銑の仕掛けた人感センサーが反応して「メェ〜」とヤギの鳴き声のような音が響いていた。takaさんが解説してくれる

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「“未来の荒廃したホワイトキューブ”というスペースのコンセプトを踏まえて展示してもらいました。作品自体が主体としてこの空間に存在している感覚を大事にしてます。例えば高橋さんは、この場所を“人類が滅亡した後の世界”と解釈しました。そこで、人類が存在していたことの何らかの痕跡を示すために、自らの声で真似た家畜のような鳴き声を使っています。未来にはどんな生物がいるかわからないので、言葉ではなく鳴き声でコミュニケーションを取ってるんです」

夜になれば、真っ暗な空間に家畜のような鳴き声だけが響くという。原田のファウンドフォトから無作為に選ばれた匿名的な女性の写真や、鈴木の会期中も変容する謎の生命体じみたオブジェも含めて、なるほどディストピアを志向するmcg21xoxoのコンセプトをよく具現化した展示だ。

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そんな展覧会を鑑賞してから建物2階へ移動すると、そこは会期を終えた展示作品や梱包材の置かれたバックヤードでありつつ、ソファーとテーブルの設えられた簡易的な休憩スペースにもなっていた。最小限の機能しか持たないため物理的には殺風景だが、不思議と居心地がいい。ここは来場者も立ち寄ることができて、作家たちとの活発な交流が行われているそうだ。部屋の隅には、差し入れだろうビールの空き缶が並んでいる。takaさんが続ける。

「この2階があって本当に助かりました。1階のギャラリーと2階のスペースで、また違うコミュニケーションが取れますから。アーティストもお客さんも、フランクに話し合えるこの部屋をとても気に入ってます。いろんな方向から作品やギャラリーのことを話し、考えることのできる空間になっていますね」

オルタナティブスペースには、ちょっとした応接間を併設しているところが多い。それは展示作品に負けず劣らず、そこで生まれる対話や相互理解が重要だからだろう。その意味で、1階と2階からなるこの二層構造は、mcg21xoxo独自のスタイルとして定着しつつあるようだ。

 

スケルトンの物件に人が集まってくる文脈設計

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今回の展示で3本目の企画になるが、筆者は前回開催されていたrunurunu、HIRARI IKEDA、Risako Yamadaの3人展を、WEB上のアーカイブで鑑賞した。アーカイブは、このプロジェクトが最も重視している要素の一つだ。

「アクティブなアーティストたちによる展示で、多くの人に愛されている作家たちだったので、お客さんもたくさん来てくれました。しかも、作品はレーザーが出たり発光したりと“態度がある作品”になっている。暗い空間の中でも存在感を示そうとするパワーを感じましたね」

 

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「態度がある作品」という言い方がしっくりくる。3組の作家によるフェティッシュな趣向やセクシュアリティが存分に展開された展示だと感じたが、takaさんはどうディレクションしたのだろうか。

「僕は作品内容にはタッチしません。作品のスタイルはどんなものでもいいと思っていて、僕がディレクターとして介入するのは“見せ方”と“アーカイブ”だけ。重視しているのは、ギャラリーのコンセプトと各アーティストの作家性をうまくすり合わせることです。例えばRisako Yamadaさんは絵画を3点持ってきてくれましたが、この空間は余白が大事なのだと説明し、展示する作品は1点に絞ってもらいました」

なるほど、あくまでディレクターは展示のフレーム設計に尽力するというわけだ。一方、スペースを共に運営しているまちづクリエイティブ代表の寺井元一さんは、mcg21xoxoについて「予想以上にお客さんが来てくれて驚いている」と手応えを語る。

「僕は第一に、まちづくり視点でこのスペースを見ています。不動産的な目線で言うと、こういう場所には基本的にあまり人が来てくれません。繁華街ではなく店舗の少ないエリアに立地していて、しかもインフラ自体が崩壊したような丸裸の物件(笑)。本来は人が集まってくること自体があまり想像できない場所なんです。だからこのスペースをマネジメントしているオーナーとしては、お客さんの動員数でプロジェクトを評価するのはやめようと思っていました。でも、やってみると意外に人が来てくれるんです」

実は、寺井さんには物件の所有者から「ギャラリー前の側溝にタバコの吸い殻が捨ててある」という苦情が入ったそうだ。もちろんその苦情はtakaさんに伝え対処してもらったそうだが、それは人が滞在しているからこそ起こる現象に他ならない。

「僕がアーティストに唯一求めるのは、何かアクションを起こした時、それに触れた人へ少しでも影響を与えてほしいということです。ボクサーがパンチをして、痛くもなんともなかったら意味がないじゃないですか。今回は苦情という形ではありましたが、その影響が部屋の外にまで漏れ出てきた。もちろん狙ってやったことではないけど、リアクションがあったという喜びは正直ありましたね」

実際、取材時に開催されていた展示「damp plosive roam」も、いくつかのメディアで取り上げられ、かなりの来場者があったようだ。「Twitterで見て笑ったのが、『本当にここなの?』というつぶやきがあったこと(笑)。見た目が廃墟ですからね」と寺井さん。ここが本当にギャラリーなのか分からず、作品を見ずに帰ってしまった人もいたそう。「でも、それも人が来ないと起きない問題。すごいことですよ」。

 

「実効支配」から生まれるスペースの新しい可能性

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そんな順調なスタートを切り、約半年に渡る連続企画展も折り返している今、mcg21xoxoはこれからどうなっていくのだろうか。takaさんは「アーティストにもmcg21xoxoのテイストが伝わってきた」と実感を述べる。

「最初は多少混乱したかもしれませんが、アーカイブを残していくことで、作家側もこの場所のコンセプトを理解してきてくれています。決してニュートラルとは言えない、特徴のあるギャラリーなので、アーティストがやりたいことと折り合いをつけながら、今後も展覧会をつくっていければいいですね」

たしかにこれまではギャラリーの独自性にアーティストが対応する形だったが、展示が積み重なっていけば、逆にmcg21xoxoのコンセプトに沿うような作品制作を行うアーティストだって出てくるはずだ。寺井さんもまた、「アーティストたちがこのスペースに慣れてきた時に、空間や作品がどう変わっていくのか見てみたい」と意気込む。

「半年のプロジェクトを終えた後も、このスペースを続けていきたい気持ちはあります。どんなプロジェクトも、一度終わりを定めないと始めることができないし、そこには当然お金や人手、オペレーションなどいろんな問題が絡んでくる。でも、手応えを感じたらまた改めて企画を立ち上げればいい。このプロジェクトは一度終わると思いますが、この場所で次のプロジェクトを始めていきたいと今は考えています。mcg21xoxoには、まだまだ伸び代があると思いますから」

プロジェクト会期後半の展示は海外のアーティストがメインになってくるので、「これまでとはまた違った雰囲気になる」とtakaさん。とはいえリピーターの観客も多いらしいから、アーティストや作品が目当てではなく、mcg21xoxoというスペース自体のファンもこれから増えていくはずだ。

寺井さんは「まちづくりにおいて、『実効支配』という言葉が僕は好き」と語る。

「『実効支配』は、松戸に昔から住んでいる、ある住人の方がよく言っていた言葉です。机上の空論で町はできていない、だから物理的に実践することが町を変える成果を生むという考え方ですね。それで、takaさんがやっているのは、そういう『実効支配』でもある。実は今回、普通の関係じゃない関係でプロジェクトを進めているんです。アーティストと不動産会社は普通は貸主借主の関係になるはずだけど、今回は共同のプロジェクトオーナーになるようにした。だから2階のスペースも不動産の契約ではなく、事業の契約を交わして、僕らと役割分担しながら場所を運営している。そうしたら、気づいたらtakaさんがいまの用途で使っていた(笑)。一緒に事業をやっている、そのなかでtakaさんの自由や当事者性があるから実効支配的なことが起きて、だから成果も出ていると思う。」

1階のギャラリーが提示する独創的な世界観と、2階でゆるやかに生起するコミュニケーション。そこにtakaさんのディレクションと寺井さんたちのマネジメントが重なることで、今後mcg21xoxoのコンテクストは松戸の中から外へ共有されていき、様々な連鎖反応を起こすに違いない。そうやってこのスペースの色が浮き彫りになることが、今から楽しみでならない。

※取材後mcg21xoxoは場所を移動し、現在新たな展示企画を開催しており、M.E.A.R.L.でもレポート取材を行いました。その記事公開に先立ち、下記に展示情報を掲載いたします。

 

※本記事はmadcity.jp および M.E.A.R.L の共通記事となります

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