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松戸のアートスペース「mcg21xoxo」が提示する、ポストホワイトキューブ時代の展示像

 

株式会社まちづクリエイティブの本拠地・MAD Cityこと千葉県松戸市。ウィズコロナ時代の今、その町に新たなアートスペースが誕生した。若きアーティスト・taka kono氏が中心となって立ち上げられた「mcg21xoxo」だ。2021年1月より約半年間に渡り、連続企画展を開催予定。文字通りスケルトンの状態からスタートを切るこの場所が提示する新しいアートのあり方とは、一体どのようなものなのか。

始まりの地・松戸に赴き、まちづクリエイティブ代表の寺井元一と、個展開催中で当スペースのディレクションを務めるtaka konoを、アーティストの中島晴矢が訪ねた。

Text:Haruya Nakajima
Photo:Takashi Kuraya
Edit:Shun Takeda

壁画プロジェクト・MAD Wallと中華系スーパーに囲まれた「mcg21xoxo」

まちづクリエイティブがつくる町、その本拠地である松戸へやってきた。

駅前へ降り立つと、いわゆる「ペデストリアンデッキ」(広場と横断歩道橋の機能を持つ、駅前にある歩行者通行用の高架建築物)から、郊外都市がどーんと展開しているのが眺められる。チェーン店の看板が目立つが、しかしデッキを降りて町中を散策してみると、古い建物や、老舗の居酒屋なんかが散見される。小さいバーやスナックの居並ぶ路地裏も健在だ。

「M.E.A.R.L.」編集長の武田俊さんと落ち合って、松戸の町を先導してもらう。駅東口すぐにある喫茶店「川名」を訪ねるも、残念ながら日曜で定休日。そこで今度は西口へ、「中華厨房 ゆうえん」のランチで腹ごしらえをする。これぞ町中華という味わいだ。その足で一つ隣の通りにある「コーヒーヒヨシ」でホットのブレンド。ここもいい純喫茶だ。レジスターが古くて、アンティークのような店である。これで取材の準備は心身ともに完全に整ったと言っていい。

そこから目と鼻の先、駅前大通りに面するまちづクリエイティブの本社・Mad City Galleryの格子戸をまたぐ。そこで代表の寺井元一さんと合流し、再び町中へ。高砂通りを北へまっすぐ歩いていくと、角にある中華系の小さいスーパーが目を引く。軒先には街路にはみ出して海外の食品が所狭しと並び、店の奥ではサイバーなカラーの蛍光灯が冷蔵庫を照らす。アジア系の人たちですごい活気だ。

上記写真のみ編集部撮影

上記写真のみ編集部撮影

そのすぐ先で、根本壁画通りに突き当たる。長く広がるこの壁画は、まちづ社が松戸で最初に手掛けたプロジェクト「MAD Wall」だという。グラフィティライターのZEDZ(ゼッツ)MHAK(マーク)、そして大山エンリコイサムがコラボレーションした、大規模なリーガルウォールだ。2010年の制作らしいから、もう10年が経過している。この規模のグラフィティがいい状態で残っているのは、とても貴重だと言っていい。

その壁画のちょうど向かいにある年季入ったマンションがセザール松戸だ。この一階部が本日の取材の目的地、松戸に新しく生まれたオルタナティブなアートスペース「mcg21xoxo」である。

暗闇を怪しく照らす、グリーンの蛍光灯

taka kono「cold space」

taka kono「cold space」

エントランスはガラス張りで、妙に突き出たファサードが愛らしい。中に入ると、そこは完全なスケルトン。コンクリートが剥き出しになった灰色の無骨な空間だ。グリーンの蛍光灯が辺りをぼんやりと照らしている。かなり怪しい雰囲気である。

そこで、ひっそりと展覧会が開催されていた。taka konoの個展「dream knowledge, no, ledge, noh, no knowledge」だ。作品は3点、かなり抑制の効いた展示になっている。

まず壁面に、腸詰のようなデロリとした管のオブジェ。次に、部屋の奥にはほとんど真っ暗と言っていい写真のプリントが貼られ、その手前には焚かれた後のいくつものお香の痕跡。そして何と言っても、被り物をしてうずくまるパフォーマーが存在感を放っている。

taka kono「゚・*:.。..。.:*・゚」

taka kono「゚・*:.。..。.:*・゚」

ポケットモンスターのキャラクター、ミュウツーのような格好だ。よく見直してみると、暗い写真にはバースデーケーキにキャンドルを灯し、向かい合わせで佇むのミュウツーらしき影が。管のオブジェも、ミュウツーの後背部に付属しているパーツであることが分かってきた。どうやら、人工生物・ミュウツーをモチーフとした作品群であるようだ。

そんな展示空間の中、作家のtakaさんが取材に応じてくれた。

「今回の展示は、疑似科学にもつながる虚構のキャラクターをモチーフに作品をつくりました。僕はインビジブルなものに興味があります。だから、作品も暗くて見えにくかったり、パフォーマーもいたりいなかったりするんです。来てみないとわからない」

taka kono氏

taka kono氏

若きアーティストであるtakaさんは、神戸で生まれ育ち、アメリカの美術大学へ留学。帰国してから、現在はここMAD Cityの住人である。なるほど、不可視性が追求されているからか、作品のみならず、薄暗いこの独特の空間自体が立ち上がってくる。

この場所は「ホワイトキューブじゃないところに惹かれて、まちづ社に紹介してもらった」というtakaさん。これから約半年、彼が企画者となって、いろいろな作家による展示が継続的に開かれていく予定だ。

事務所用に借りた物件を、コロナ禍の影響でアートスペースへと転換

taka kono「underexposed birthday photo」

taka kono「underexposed birthday photo」

そもそも、どのような経緯でこのスペースは誕生したのだろうか。まちづ社の代表・寺井さんはこう答える。

「もともと、この一階部と上の階も借りていて、二階をまちづ社の事務所に、一階にカフェのような飲食を入れてまちづ社のエントランスとして機能させるつもりだったんです。事務所でもありつつ、まちづ社のあり方を紹介できるような人が集まれる場所。その計画が、コロナで頓挫してしまった。抜本的なコンセプトの変更を迫られていた時に、takaが気に入ってくれて、余らせていたこの場所をオルタナティブスペースとして活用するプロジェクトが生まれました」

なるほど、コロナ禍が意図せずして生んだ隙間が、この空間だったのだ。そして、こうしたスペースが松戸という郊外にできたことの意味も改めて考えさせられる。人数的にも空間的にも「密」にならざるを得ない都心から、郊外や地方へ生活の場を移す人も増えている。それはアートスペースにおいても例外ではないだろう。

郊外のシャッター商店街や地方の古民家をオルタナティブスペースとして再度活用する動きは、若いアーティストを中心に、ここ10年近く起こってきたものでもあった。その流れが、ポストパンデミックの時代に加速するかもしれない。

ポスト・ホワイトキューブ的ディストピアの風景

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そんなスペースで展開される企画展において、takaさんはある“ゆるやかな決まりごと”を設定したそうだ。それは、メンタルスペースと物理的スペースをしっかり考える事、今ある状況をうまく使うこと。既に打ってある釘に作品をかけたり、新しい設備を取り入れる必要がない展示をしたりと、ここをそのまま使うことで、この空間が持っている雰囲気を生かすディレクションを試みているのだ。

「理想は、既にこの空間にあるコンテクストと作品が混ざり合うような感覚です。最近の若いアーティストは、ギャラリーに作品を飾らなくても、自分たちで見つけた場所に自分たちで展示して、Instagramに投稿して人を呼んだりと、インディペンデントに活動している人が多い。だから、いわばここは未来の荒廃したホワイトキューブなんです(笑)。ギャラリーが取り壊されて放置されたディストピアの風景に、展示作品が自ら戻ってきているようなイメージですね」

さらに、このスペースでの展示と共に、オンラインでの展示アーカイブも充実させていきたいという。オンライン展示もまた、コロナ禍によって広まった形態の一つだろう。「アーカイブは展示の忠実な再現というより、異なる時空間上に同時に存在し、呼応しあっている様を見せられたらと思っています」と、takaさんは展望を述べる。

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とはいえ、現実のローカルなコミュニティを手放すわけではない。あくまでここMAD Cityの一角で展覧会は生起していく。資金面に関しては、これからクラウドファウンディングや助成金の申請も始めるそうだ。寺井さんは展望についてこう語る。

「takaさんは自分の展示ばかりでなく、このスペースの生態系、エコシステムを作ることに関心があるんだな、と。もしここを半年間運用できたら、その後ずっとやっていける可能性があるし、少なくともそのヒントをつくれます。ウィズコロナの世界線で、この形がおそらく今のベスト。これからこの空間が中心になって、アーティストの使える場所が松戸の中にどんどん広がっていく可能性はあるのではないでしょうか」

「mcg21xoxo」は、takaさんたちアーティストのモチベーションと、寺井さんたちまちづ社のストリートワイズがシェアされる、アーティストとまちづ社の協働事業となりそうだ。そうしたつながりが町中で唯一無二の星座を結ぶことを期待しよう。これからこの場所で、展覧会という形式におけるニュースタンダードが提示されるかもしれない。

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PROFILE

taka kono1994生まれ。
千葉県を拠点に活動するアーティスト。
2017年に米国ニューヨーク州パーソンズ美術大学で美術学士を取得。※本記事はmadcity.jp および M.E.A.R.L の共通記事となります

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