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廃材に新たな価値を見出す「CIRCULATION CLUB」が生まれるまで
誰かの「いらなくなったモノ」を回収し、「いらない世界を変える」───そんな「循環型物流」の道を切り開いてきた株式会社エコランド。「リユース」という言葉がまだ社会に浸透していなかった頃から、同社はリユースアイテムを多くの人々に届けるための試行錯誤を繰り返してきた。そのエコランドが株式会社まちづクリエイティブとともに新たに立ち上げるプロジェクトが、「CIRCULATION CLUB」だ。使えなくなった廃材の活用案を様々な形から探る、レシピ開発型のプロジェクトだという。
この「CIRCULATION CLUB」はどのような社会課題にアプローチすべく発足したものなのか。本記事前半ではその経緯や狙いについて、株式会社エコランド取締役本部長の趙勇樹さんと、株式会社まちづクリエイティブ取締役の小田雄太の対談を通じて紐解いていく。
後半には2020年4月に笹塚ボウルで開催予定の親子ワークショップに先立って行われた、東村山市にある倉庫で開催された社内ワークショップの模様をレポートする。
text:Haruya Nakajima
photo:Natsuki Kuroda
edit:Shun Takeda
不用品の売上寄付金からなるファンドを活用した「CIRCULATION CLUB」のはじまり
ーエコランドの新たな試み「CIRCULATION CLUB」についてお話を伺っていきます。まず、このプロジェクトの原資となっている「エコランドファンド」の存在からうかがえますでしょうか?
趙:わかりました。ではまず株式会社エコランドの事業から説明させてください。私たちはお客様が「いらない」と決めたモノを回収させていただいて、それを国内や海外に販売する「リユース代行業」を行っています。その際に、販売金額の10パーセントをお客様にキャッシュバックするか、「寄付」という形でお預かりするかを選んでいただいています。そこで寄付されたお金が、お話にでた「エコランドファンド」にプールされる仕組みです。
プール金はあくまでお客様からお預かりしたお金なので、社会貢献を中心に使ってきました。東日本大震災での支援物資の運搬や、車いすゴルフの世界大会の支援、最近では回収したベッドマットレスをカンボジアの児童養護施設にお送りさせていただきましたね。
また、今回の企画の前身として、使わなくなったモノにデザインを加えて家具を作る「Re-arise」プロジェクトがありました。集荷したリユースが難しい品を、デザイナーさんや美大生の方々と一緒にデザインを考えて、新しい家具を作りだすプロジェクトでした。そんな「Re-arise」の精神を受け継ぐ形で新たに立ち上げたのが「CIRCULATION CLUB」なんです。
ー寄付金をベースに、リユースの思想を伝えるSDGs的な立ち位置として「CIRCULATION CLUB」があるんですね。ネーミングにはどのようなビジョンが込められているのでしょうか?
小田:我々まちづクリエイティブが提案したのは、モノと経済の新しい「CIRCULATION=循環」です。廃材を活用してプロダクトアウトすることを目的とすると、作ったモノは売れなければ世の中に循環していきませんよね。でも、せっかく「エコランドファンド」のプール金を使わせてもらうのであれば、「循環」をもうちょっと柔らかく定義できないかと考えました。
企画内容としては、プロダクト型ではなく、ワークショップやアクティビティを中心にしたアップサイクルにしたかったという想いがあります。「CLUB」と付けたのは、クラブ活動のような気軽な雰囲気を出したかったからです。
趙:企画を立ち上げたのは、ちょうどエコランドがサービスミッションを作り直すタイミングでした。これまでのキャッチフレーズは、「あなたの『いらない』が、だれかの『ほしい』」。でも、エコランドのサービスがなんのためにあるかを再定義しようと、社外のクリエイターの力を借りずに社内の人間だけで内製したんです。その結果、「いらない世界を変える」という言葉にたどり着きました。そのフレーズから全て発想していったんです。
小田:社内の人たちだけで導き出したコピーだったんですね! すごくいい。
趙:そうなんです。エコランドでは、回収品をモノの価値順にABCDEとランク付けしています。AとBが国内で売れるモノで、CとDが海外で売れるモノ。Eはどうしても捨てざるをえない領域のモノなんです。このEランクのモノを捨てないようにすることが、実は僕らが一番やりたいことなんですよ。それが「いらない世界を変える」というそもそもの僕らのミッションなのではないか、と。そうしたアクションを実践していくことで、社内の意識が変化していってほしいんです。
趙:回収品を見た瞬間に「これはゴミになるな」と分かるモノがあります。今回のトライアルワークショップでは取っ手が壊れている引き出しなどを素材に選びましたが、普通もう使えませんよね。でも、「いや、これもおもしろいモノに変わるんですよ」なんて話がお客様にできたら嬉しいじゃないですか。
実際にお話しなくても、「あれ、なんでエコランドの人は使えないモノをこんなに大切に扱ってるんだろう」とお客様に感じていただければいいな、と。そんな相談をまちづクリエイティブさんにずっとしてきて、今回のプロジェクトに繋がっています。
小田:今あるABCDEのカテゴリーとは違う評価軸を提示したかったんです。EランクのモノをDランクにすることはできないかもしれないけど、ある人にとっては思い入れのある大切なモノになる。その価値転換というか、別のピラミッドをつくりたかったんです。
ゲストクリエイターが倉庫を探索して見つけ出した「引き出し」
ー「CIRCULATION CLUB」では、廃材を使用したものづくりのワークショップを行うと聞きました。今回は講師に日用品を楽器に作り変え演奏するユニット・kajiiさんをお招きし、打楽器・カホンにバネをつけたオリジナル楽器「バネカホン」をつくるそうですね。素材については、どう決められたのでしょう?
小田:実は素材を何にするかという段階で、紆余曲折があったんです。最初はプラスチックゴミを使おうと話してたんですよね。
趙:廃プラスチックの回収を中国が辞めたことで、今プラスチックはとても焼却コストがかかるようになってるんですよ。だからこそプラでいきましょう、と。プラスチックは溶かしてしまえば液体になるので、違う形にリビルドするのがすごく簡単なんです。そこで、アーティストがキーホルダーをつくる企画などを考えていました。
小田:でも、結局そうした二次加工が前提になってしまうと、また別にコストがかかってしまうんですよね。エコランド、まちづクリエイティブ、そして今回のkajiiさんといった三者で終わらなくなってしまう。そこで、kajiiさんにエコランドの倉庫を探索して素材を見つけだしてもらおうと考えたんです。その結果、引き出しという素材に出会い、じゃあこれでカホンをつくろうということになりました。
趙:kajiiさんがリサーチをしている時、周りで見ている社員がびっくりしていて。普段はゴミになる引き出しや木材を叩いて、「めっちゃいい音してる!」「こっちの箱はどうだろう」とかやっているわけです。それを後ろで驚きながら眺めている社員という絵面が、すごくよかったですね。
なぜ親子を対象に廃材を使ったワークショップを行うのか
ーある意味で社員の方々は、ルーティンワークとして効率よく回収品を仕分けているわけですから、全く新しい視点ですよね。完成形はどのようにしてバネカホンに決まったのでしょうか?
小田:まず大前提として、「CIRCULATION CLUB」を現場で働くエコランド社員の皆さんの後方支援になるようなプロジェクトにしたいと考えていました。特に、将来的に家具などの粗大ゴミを出すようになるであろう、家庭を持っている人たちにつなげたかったんです。そこで「親子」というキーワードが生まれました。
大人だと、廃材を使って楽器をつくるのはたしかに楽しいけど、「家に持って帰りづらいな」みたいになりますよね(笑)。でも子どもがいる家庭であれば、彼らは固定観念を持たないクリエイティブな存在だから、そうした加工を絶対に楽しめるはず。親子でワークショップを楽しんでもらうことで、最終的にエコランドの活動に紐づけていくことができると思ったんです。
そこから「親子で楽しめるワークショップってなんだろう?」と逆算していく中で、廃材を使って演奏するアーティスト・kajiiさんに声をかけたんです。そして先程話した東村山倉庫でのリサーチを経て、彼らが引き出しのバネカホンを提案してくれました。
ー今回素材となった引き出しの回収は、量として多いものなのでしょうか?
趙:そうですね。エコランドの回収品の約半分が家具類なんです。代表的なものは、ベッドフレームやタンスなどの木材です。今の住宅ってタンスがいらないんですよ。お客様は都内の方が多いんですが、引っ越してもウォークインクローゼットや収納付きの物件がほとんどですよね。せいぜい収納で買うとしても衣装ボックスや本棚くらい。だから、タンスとその引き出しが回収でたくさん出るんです。
目指すのは、社員が運営を行えるワークショップの「レシピづくり」
ー今日は趙さんご自身もワークショップに参加されていましたが、いかがでしたか?
趙:シンプルにおもしろかったですね。「あんなゴミがこんな風に変わるなんて」という感傷的な感じではなくて、板を貼って穴を開けてバネをつける、その工程が楽しくて出来上がったものを叩きたくなるってすごいな、と。
小田:社員の方たちの反応もよかったですよね。やっぱり現場の人たちって目の前の仕事に集中するから、自分の日々のルーティンが何につながるのか、会社でケアすることが大事だと思うんです。売り上げももちろん大切なんだけど、その仕事にどんな意味があるのか、会社としてのビジョンを示さないといけない。このワークショップを通じて、社員の方々がエコランドで働く喜びを得られるようなプロジェクトになってほしいですね。
趙:まさに、僕らがこれからトライしていかないといけないのは、今の取り組みのその先を見せることだと思っています。例えばメルカリさんはアプリというプラットフォームを用いてリユースのマーケットをつくりました。対して回収業者であるエコランドは、お金を払う意義や寄付の使われ方を見える化して、「リユースの体験」を設計できるはずです。
趙:リユースって何も無駄にしないし、加工もしないし、「これ使う?」「あ、使うよ」でいいから、アクションとしてすごく簡単じゃないですか。そこが僕は大好きなんですよ。そうしたリユースの魅力を子どもたちに伝えられたらいいですね。
ー今後は社員の方々がファシリテーションしてワークショップを運営していくことも考えられているそうですね。
趙:まちづクリエイティブさんとの打ち合わせでよく飛び交っているキーワードに「レシピ作り」というものがあります。アーティストさんたちとプロジェクトのレシピを一緒につくって、社内で預かっていくやり方を模索したいですね。自分たちが楽しめてないと、お客様や子どもたちにそのおもしろさを伝えられませんから。
小田:現場の人たちは普段からたくさんの不用品を見ているわけですから、今後いろんなワークショップを重ねていけば、「これは何かに使えるんじゃないか?」という発想が生まれてくる気がします。「CIRCULATION CLUB」はもちろんアウトプットも大事だけど、エコランド社内のインナーブランディングとしても機能していけば、と。社内の中でまさしく「循環」が生まれるようなプロジェクトにしていきたいですね。
趙:社員には、「ゴミを運んでいる」という意識ではなくて、「何かに生まれ変わる可能性を持ったモノ」として回収品に対峙する人であってほしいと思います。
エコランド社内で開かれた楽器作りワークショップ
サステナブルなものづくりの方法を提示する「アップサイクル(創造的再利用)」の考え方を基礎とし、さらに資源が循環され続けるサーキュラーエコノミー(循環型経済社会)の考えにもとづき立ち上がった、「CIRCULATION CLUB」。その第1弾として実施される親子参加型のイベント本番に先立ち、社内ワークショップが開催された。
普段はゴミになってしまう回収品を一度立ち止まって見つめ直し、別の活用の仕方を考えてみる。そうやって視点を変えることで、これまでとは異なる価値を発見し、不要になったモノに新しい時間を宿すことができるかもしれない。
そんなワークショップ第1弾の講師を務めるのは、クマーマさんと創さんによる日用品創作楽器グループ「kajii」。お茶碗などの食器を並べて音を奏でる「食琴」を筆頭に、あらゆる日用品を楽器に変える独自のスタイルで音楽活動を展開し、これまで100種類以上のオリジナル楽器を創作してきた。
今回のワークショップタイトルは、「引き出しでバネカホンをつくろう」。カホンとは、座って叩く椅子のような打楽器で、そこにバネをつけた楽器が「バネカホン」だ。エコランドが回収し、壊れてしまって使い道のないタンスの引き出しや小箱を再利用して、カホンとバネ、2パターンの音を奏でるオリジナル楽器を生み出していく。
まずは素材のチョイスから
いよいよ社内ワークショップがスタート! エコランドの社員さんたちが引き出しを手に取ったり叩いたりしながら、思い思いの品を選んでいく。箱のサイズや形状で音が変わってくるそうだ。
まず、チョイスした引き出しと同じ大きさにベニヤ板をノコギリで切る。よい打音を出すための穴はkajiiさんがドリルで開けてくれる。最初はどこか照れながら取り組んでいた社員の皆さんも、気づけば子どものような表情で作業に没頭。両面テープと釘を使い、慎重な手つきで板を貼り付けていく。
「茶」という文字が書かれた銀色の茶箱を手にした社員さんは、「大きな茶箱は捨てる時に憎いけど、この小さな茶箱はかわいいね」と、現場の本音を漏らして笑いを誘う。
皆さんが着用しているユニフォームには「Less is Beautiful」の文字がプリントされていた。
最後に箱中央にキリで穴を開け、バネをねじ込めば、「バネカホン」の完成だ!
童心に返り、素材に触れ楽しむということ
それぞれの作品を手に、叩いてみたり揺すってみたりすると、簡単な手順を踏んだだけなのに、きちんと大小も音程も様々な音の出る「楽器」になっている。打楽器としてポコポコと楽しい音を奏でるかと思えば、バネを振動させるとなんとも言えない不穏な音が部屋に充満し、思わず笑ってしまう愛くるしさだ。
ワークショップの大団円は、kajiiさんのお手本に合わせたバネカホンの大合奏。何度かの練習を経て、いくつかのリズムパターンを使い分けた一曲をみんなで演奏し終えると、会場は一体感に包まれ自然と拍手が起きた。
「実際に作ってみて、音を体感できて驚いた」「今後、モノを集める時の視点が変わるかも」と、みんな口々に感想を言い合う。ある社員さんはこう述べた。
「日ごろ回収業務をしていると、壊れてしまっているモノは捨てるしかない。そんなゴミでも、こうやってちょっと手を加えるだけで楽器として生まれ変わる。こうした体験を共有できれば、エコランドの想いもお客様により伝わるのではないでしょうか」。
目線を変えればゴミが素材に生まれかわり、自分で「クラフト」することでかけがえのない楽器となる。それを日々実際に現場で働く社員さんが体験するということ。この日トライアルワークショップに参加された社員の方たちの中に生まれた歓びは、きっと本番で同じ体験をする子どもたちのそれと大きく違わないだろう。まさに魔法のようなワークショップだった。
INFOMATION
株式会社エコランド
70年にわたり物流事業を営む株式会社ウインローダー内のベンチャー事業として「エコランド」がスタート。2013年に分社化。ご家庭で不要になった家具や家電などのリユース代行サービス「エコ回収」を通じて、モノを大切にする社会の実現を目指す。
代表取締役社長:高嶋民仁
所在地:〒167-0043 東京都杉並区上荻2-37-7
URL:https://www.eco-kaishu.jp
※本記事はmadcity.jp および M.E.A.R.L の共通記事となります
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