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日本で一番短いコンセプト型商店街「Mism」──昔ながらの仕組みをハックしてできること
2021年3月、松戸市に新しい商店街「Mism(エムイズム)」が発足した。全長4メートル、中心店舗2店の日本で一番短い商店街。地縁や利便性ではなく、個人商店どうしの理念による結びつき(イズム)を重視するこのコンセプト型のプロジェクトは、なぜ「商店街」として生まれたのか?
立ち上げに関わった飲食店「Tiny Kitchen and Counter」の古平賢志さんとまちづクリエイティブの寺井元一が、Mism発足の背景とこれからのビジョンを語った。
text:Yuta Mizuno
photo:Takashi Kuraya
edit:Shun Takeda
アソシエーションとしての「商店街」をつくる
──松戸にあたらしく発足した商店街「Mism」はどのように生まれたのでしょうか。
寺井 きっかけとなったのは、2019年から松戸市の職員の人たちと一緒に取り組んでいる、まちづくりの勉強会「MAD STUDIES」です。MAD STUDIESのテーマは、道路や河川敷、公園といった公共空間をどう使いこなしていくか。勉強会ではそのアイデアをいろいろ検討するんだけど、これは全部イベントだから一時的な施策なんですよね。でも、お店を営んでいる民間のメンバーの人たちは、当然、恒常的に自分のお店に人が流れて商売につながることをやらないと続かない。
そこで、イベントが終わっても使えるツールとして、松戸のローカルプレイヤーたちを紹介する「MATSUDO CITY CARD」をつくったんです。これをさらに街に落とし込んでいくために、どうしたらいいか。市の商店街を管轄する部署の人たちといろいろ話していたんです。
──そもそも「商店街」って、どのような位置づけなのでしょうか?
寺井 大きな話からすると、商店街は戦後の高度経済成長期に大いに賑わったんですが、その後に危機に見舞われているんです。というのも、大店法(大規模小売店舗法、1974年施行)が、大型ショッピングモールの郊外出店を加速させて、日本各地にシャッター商店街を招いてしまったという失敗がある。
そのなかで商店街を守る補助金なども整備されていきました。そしてそれでも止まらない商店街衰退の反省から、2000年に大店法が改正(大規模小売店舗立地法)された際には中心市街地の商店街を守るベクトルが働いて、「都市計画法」と「中心市街地活性化法」を合わせた法案が生まれました。これが「まちづくり三法」です。
じつは、この改正のときに「もはや商店街はいらなんじゃないか」っていう不要論も起きたんですね。商店街というものには、たくさん補助金が流れているし、その存在意義が問われた。これに対して、商店街の人たちは「商店街は商業だけの存在じゃない」っていうキャンペーンを打ち出した。
住宅街や駅に近い昔からの商店エリアには、地域の人たちを見守る役割があって「自分たちは地域コミュニティの核である」というわけ。つまり、商店街は商業的な価値だけではなく社会資本としての価値も打ち出すことで、「まちづくり三法」を勝ち取ったんです。
──買い物の利便性だけではなく、地域コミュニティにおける存在意義が認められたわけですね。
寺井 そうですね。とはいえ、僕は地域コミュニティにとって大切だから商店街が必要というのはやっぱり変だと思っていて、魅力的なお店が商売をしていて、はじめて商店街の存在価値があると思います。でも既存の商店街は減っていくばかりだし、若い店主も商店街に入りたいと思っていない。
いま続けている人もしんどいとか言っている。もし自分たちが商店街をつくるとしたら、どのようなかたちで実現できるのか。調べてみると、松戸市全域には約70くらいの商店街があることがわかった。
で、そのなかでもっとも小さいのは3店舗だけの商店街なんです。店舗数が減ってきてしまったものの、そのまま商店街として認めているらしい。もうひとつは、商店街なのにばらけていることです。大きな商店街では50くらいの店舗が入っていたけど、店を閉じていたり、引っ越しや区画整理でばらばらになっていたりする。
とはいえ、商店街には中心が必要なので、できれば3店舗くらい並んでいたほうがいい、と市の人から言われました。まちづクリエイティブが貸している物件のなかに3店舗くらい並んでいる場所があるんじゃないかと思っていたら、MAD STUDIESで一緒だった古平賢志くんのお店「Tiny Kitchen and Counter」があったんです。そこで、2020年の8月くらいに古平くんに相談しました。
──その商店街の話を聞いて、古平さんはどう思われましたか?
古平 2012年にまちづクリエイティブの物件に入ったとき、寺井さんに江戸川の河原でカフェイベントをしてみたいと企画書を持っていったことがあるんです。夕日が綺麗だから、河原にスピーカーとソファを置いて、コーヒーが飲めるような。そうしたら、おもしろいけど実現させるためには、まず地域の組織に関わって、お偉いさんに顔を覚えてもらって、それから企画書を見てもらって──と言われ。これじゃ、実現するまでにたぶん2、3年はかかるなと。
自分たちの周りには発想力があってクリエイティブな人がいっぱいいるのに、実現する機会にアクセスできないから、結局リリースすることもできない。おもしろいことをする気概があるのに地域と接点をもてないから、みんな都内に出ていっちゃうんですよ。その結果、ポテンシャルはあるのに松戸がおもしろくなっていかない。一方で「町を活性化しましょう」みたいな大義名分を打ち出すのも自分のスタイルとは違う。自分たちの肌感覚でおもしろいことを実験できる機会や組織がほしい。そう思っていた矢先に、商店街の話をいただいて。
僕のなかの商店街のネガティブなイメージって、上下関係が厳しくて、意味の分からないリスクを背負っていて自由が利かない。なんのためにやっているかわからない商店街なんて絶対にやりたくない。だから、ある目的を共有しているなら編成は流動的であっていいし、一番大事なのは、おもしろいことを自分たちから仕掛ける気概があることです。商店街をつくるんだったら、行政的な表記は「商店街」かもしれないけど、僕のなかでは「プロジェクトチーム」である、そんなイメージをもっていました。
イズムでつながる商店街のあり方
──まさにアソシエーションとしての商店街ですね。おふたりのなかではどんな議論をされたのでしょうか?
寺井 最初は、そういえば商店街っていったいなにが本質的に価値があるんだろうって考えた。それは旧来、いろんなお店が一つの通りに並んで固まってるから便利だってこと。でもそういう便利さだとスーパーやショッピングモールどころか、いまやAmazonや楽天みたいなウェブサイトが一番便利だったりする。
距離の近さじゃなくて、違う近さがこれからの商店街には大切なんじゃないか。そんなことを考えてみると、「同じ通りに一緒に並んでいるお店」がひとつの商店街なのではなく、「同じ価値観でつながっているお店」をひとつの商店街であるとしたほうが、機能するんじゃないかと思った。
古平 発信力が強くてブランディングがしっかりしているなら、お店どうしの距離があっても、お客さんは来ると思うんです。県外や国外から「おもしろそうだから松戸に行ってみよう」と思えるぐらいの動きをしないとやる意味がないし、松戸市内で競っていてもしかたない。
寺井さんと最初に話したのは、いきなり人を集めるのではなく、ブランディングやルール決めをしっかりやろうということでした。だからロゴとコンセプトを最初に決めました。ふつう商店街をつくるときはコンセプトから決めないですよね(笑)。
──「Mism」という商店街のネーミングにはどのような意味を込めているのでしょうか?
古平 イズム(ism)って主義主張のことですよね。軸となる主義や主張=イズムが大事な概念だなと。Mは松戸のことですが、そこから、たとえば、まつり、ミュージック……みたいに派生できる。あと、VIを考えているグラフィックデザイナーの佐藤大輔さんが「Mism」は「M is M」にもなると気づいて。だから「松戸 is Mystery」「松戸 is Music」みたいになるね、って。
商店街発足キャンペーン第1弾
寺井 Mismは古平さんの「Tiny Kitchen and Counter」と「Mahameru Coffee」とまちづクリエイティブで2021年3月に発足しました。さらに「OLD FIGARO PEOPLES+BEBOP BAGEL」(ベーグル専門店)と「FUJIKURA SPORTS」(スポーツアパレルショップ)、「山田屋の家庭用品」(日用雑貨セレクトショップ)、TTAKK(パン屋 / ブーランジェリー)をむかえて、全6店舗で約1ヶ月間の発足記念キャンペーンを実施しました。
距離ではなくイズムとして商店街がつながることを役所が認めてくれたけど、とはいえ、お店どうしがつながっていることを示す必要がある。各店舗の距離はむしろ普通の商店街より離れているので、6店舗を回遊してもらえるように、各店のショップカードを兼ねたまち歩きカードをつくって、各店舗に複数枚ずつ設置。すべてのカードを集めるとノベルティがもらえる仕組みを用意しました。
各店舗で集めたカードをリングで止めることで、オリジナルセレクトの商店街マップ冊子ができあがる。
ノベルティとして、最初はトートバッグとかを考えていたけど、普通すぎるってメンバーからツッコミが入って、次に出てきたのが風呂敷。
古平 で、あるメンバーの奥さんから「風呂敷なんて普通じゃん。ふんどしはどうよ」って言われて。「ふんどし!?」と思ったけど、ネットで検索したら、ふんどしってほとんど和系の柄なんです。だから、あえてグラフィティとかストリートカルチャーのデザインをふんどしにプリントしたらおもしろいよねって。
寺井 ノベルティのプリントはFUJIKURA SPORTSにお願いしました。1946年に創業したスポーツ用品店なんだけど、2017年にオリジナルプリントの商品をつくるようになって、ものがつくれる場所になっているんです。だから外注するんじゃなくて、商店街のなかでノベルティをつくろうと。
──キャンペーンを終えて、いかがでしたか?
古平 結果的に20代後半から30代、40代と幅広い人が来てくれました。カップルも多かったし、わりと新規のお客さんもいた。しかも、みんなご丁寧に回ったお店にお金を落としてくれて。ちょうどそのころ、コロナで出歩きたいけど出歩いちゃいけないムードがあって。でも僕らは「出歩いていいんだよ」って打ち出したのがよかったのかもしれない。
寺井 なによりも、単にカード集めのチェックポイントじゃなくて、お店を回って「あ、こういう店あったんだ」って、お客さん自身がちゃんと納得感を感じてくれたことが大きかったんじゃないかな。理念を共有できるお店どうしだからこそ、それらが横でつながったことにおもしろさを感じてくれた。
──利便性とは反対の流れを追求したからこそ、その価値を楽しんでくれる人に響いたのかもしれませんね。
寺井 あと、常連さんも普段自分が行っているお店を教えてあげたい気持ちもあったんじゃないかな。パン屋の「TTAKK」の常連さんが、やたらと自主的にカードを配ってくれたことがあったよね。その後、パン屋から一番近いベーグル専門店の人から「急に新規のお客さんが大量にまとめ買いするから、常連さんから文句言われているんすよ!」って、嬉しい悲鳴を伝えられて(笑)。
商店街という仕組みを使い倒す
──Mismはこれからどんな展開を考えていますか?
寺井 いまは新しいキャンペーンを絶賛企画中で、ノベルティをさらに強化しようとしています。前回のキャンペーンのあとに反省会をやったら、味をしめたメンバーからソフビの人形をつくりたいって話が持ち上がって。
古平 いずれ参加メンバー全員が自主的に企画を持ち込んで、それが仕組みとして回るのが理想だと思っていました。と思っていたら、いきなり次から「おれ、こういうキャラのソフビをつくりたいんだよね」っていきなり企画書が出てきた。
寺井 みんな正しい商店街の使い方に気づき始めたのかも。商店街って本当はそうやって使えばいいんだけど、実際は全然利用されていない。商店街を支援する仕組みって、市も県も国もやってるんだけど、例えば松戸市で千葉県の補助金を受けている商店街って、最近だと70のうちひとつしかないらしいんです。
市の補助は簡単に使えるから使うけど、それなりに企画書とか書類とかつくらないといけない県の補助になると使ってなかったりする。つまり、商店街の補助金制度って充実してきたわりに、みんな前向きに使いたい理由がないんじゃないかな。
だから、Mismは商店街のあたらしい使い方を示すモデルになっていると思います。商店街という昔ながらの仕組みのハックです。商店街が減ってきている今、松戸に限らず「ぼくたちはこういう商店街をつくりたい」ともっと言ったほうがいいし、その使い方にはまだまだたくさんの余地が残されていると思っています。
※本記事はmadcity.jp および M.E.A.R.L の共通記事となります
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