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アートと地域の共生についてのノート 第5回
※このコラムはMAD Cityの入居者に寄稿いただいています。古民家スタジオ 旧・原田米店にアトリエを構える美術作家・池田剛介さんが、今さまざまな論議を呼んでいる「アート」と「地域」について語ります。
連載 「アートと地域の共生についてのノート」
これまでとこれから:共生ノートの余白に
京都の崇仁地区の空き地を利用して展示を行う——もしもわたしが行政側の担当者としてこの話を聞いたとしたら、世界有数の観光都市である京都の玄関からほど近くにありながら、日本最大級の被差別部落として長年放置されてきたエリアに手を出すのは危険すぎる、と尻込みするに違いありません。
5月10日まで京都で開催中の国際芸術祭PARASOPHIAでは、まさにこの崇仁地区を会場の一つとして屋外展示が行われています。フェンスで囲まれたこの地区の空き地に展示されたヘフナー/ザックスによる《Suujin Park》は、この芸術祭での数ある展示の中でもベストワークの一つと言えるでしょう。
アンタッチャブルな領域として取り残されてきたこの地区に来歴を持つ様々なモノを扱いながら、これらに新たなアレンジメントを与えることで、空想の「遊び」の場としての公園が現れる。この空間がフェンスで囲繞されていることもまた、一つの既成の世界と地続きでありながら、半ばそこから解離し、この世界とは別様のフィクショナルな領域を作り出す作品のありようを際立たせています。
京都市立芸術大学はこれから10年かけて、この地区へとキャンパスを移転する予定となっており、《Suujin Park》のすぐそばにある元・崇仁小学校では、京都芸大の関係者が中心となって組織された「Still Moving」展が開催中。本連載のテーマであるアートと地域との関わりをめぐる興味深い実践が、こちらでも展開されています。
* * *
ここで「これまでのあらすじ」的に、前回までの内容を振り返っておきましょう。これらは連続していながらも、ある程度それぞれに独立した内容となっており、様々なジャンルの物事や議論を扱っています。未読の方は、ぜひ関心のありそうなところを入り口にしてもらえればと思います。
第1回:「美術」から「アート」へ。これまで日展に代表される公募団体の階層秩序を中心として閉鎖的な印象のあった日本の「美術」が、地域コミュニティに密接しながら社会へと開かれた「アート」へと変化しつつある状況をラフスケッチしました。
https://madcity.jp/2014/12/note01_ikeda/
第2回:文学(アート)とアクティヴィズムとの差異についてスーザン・ソンタグによる議論を参照しながら考える。さらに2014年台北で勃発した大規模なオキュパイ運動「太陽花学運」の周縁部に注目しながら、アートと社会運動とを容易に区別できない領域を見ていきました。
https://madcity.jp/2015/01/note02_ikeda/
第3回:クレア・ビジョップによる議論を起点としながら、同調的に空気を読みあう「関係」でもなく、論争的に対立しあう「敵対」でもない「共生」のあり方を考察。千葉雅也氏の議論を参照しつつ、アソシエーションやフィクションの作用について『アナと雪の女王』をモチーフにしながら検討しました。
https://madcity.jp/2015/02/note03_ikeda/
第4回:フランシス・アリスによるヴィデオ作品に関して、國分功一郎氏による議論を経ながら「労働」と「遊び」という観点から考える。さらにジャック・ランシエールを参照しつつ、アートと社会-政治的な現実との関係について、第3回で扱ったフィクションの作用との関連で考察しました。
https://madcity.jp/2015/03/note04_ikeda/
とりわけ震災以後の日本において、アートと社会との関わり方が問われ、様々な実践が模索される状況を念頭に置きながら連載を重ねていくことになりました。第1回の最後でも触れましたが、わたし自身、美術作家として活動を行っており、こうした状況の外側にいるわけでは決してなく、つい先日も台湾南部の都市・台南市が主催する芸術祭の一環で展示を行ってきたばかりです。こうした実制作者としての活動は、本連載での問題意識と通底する部分をもつわけですが、ここではひとまず動画で展示風景の様子を紹介するに留めたいと思います(今回の台湾での活動については、Realkyotoにて「モノと自然の騒めく街で 台南滞在制作記」が公開されています)。
本連載に関連した一夜限りのスペシャルトークイベントを開催します
もっと詳しく話を聞きたい、理解を深めたいという方、この機会をお見逃しなく!
池田剛介+寺井元一「アートと地域の共生をめぐるトーク」
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プロフィール
池田剛介(Ikeda Kosuke|美術作家)
- 1980年生まれ。自然現象、生態系、エネルギーなどへの関心をめぐりながら制作活動を行う。 近年の展示に「Tomorrow Comes Today」(国立台湾美術館、2014年)、「あいちトリエンナーレ2013」、 「私をとりまく世界」(トーキョーワンダーサイト渋谷、2013年)など。 近年の論考に「干渉性の美学へむけて」(『現代思想』2014年1月号)など。
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