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アートと地域の共生についてのノート 台湾編 第6回(最終回)

※このコラムはMAD Cityの入居者に寄稿いただいています。古民家スタジオ 旧・原田米店にアトリエを構えていた美術作家・池田剛介さんが、今さまざまな論議を呼んでいる「アート」と「地域」について語ります。

連載「アートと地域の共生についてのノート」

あとがき:共生ノート台湾編の余白に

台湾での一年間の活動を終えて、6月には日本へ帰国しました。今回のわたしの台湾滞在は、2014年に台北で学生たちが国会議事堂を占拠した「ひまわり学運」に導かれたものであり、隣国でのこうした出来事がいかに可能となったのか、というわたし自身の問いをめぐっていたように思います。

前回議論してきた「インサイドアウトな変革」とは実のところ、この台湾で得られたインスピレーションを発展させたものでもありました。モノたちによって国会議事堂の内部にひとつの閉じられた時空を形成しながら、その内部の変容を外の世界へと反転させていくこと。運動がひとまず収束したのち台湾での民主化運動は、その後の政権交代や初の女性総統の誕生へと繋がっていきました。このことを「占拠」という求心性と閉鎖性をもった出来事が、反転しながら外へと伝播していったプロセスとして捉えることもできるでしょう。

無論こうした状況の認識は、ひとつの理想化された見方であり、外国人としてのわたし自身の視点が多分に作用していることを認めるにやぶさかではありません。とりわけ政権交代後の中国との関係には、これまで以上に困難な舵取りが必要となり、国内問題も山積していると言われています。

しかしなお、隣国でのこうした出来事をひとつのモデルとして、いわば「模型」のように捉え直すことによって日本の状況と並置させ、その平行性と差異から、日本の現状を捉え直すこともまた可能であるように思われるのです。「この世界」を相対化、というよりも絶対的に「この世界」の只中で、その別様へと通じるためにこそ、「この世界」から区切られた別の世界の閉じられを形成する必要があるだろう――このことが、これまで議論をつうじて現れてきた一つの結論であり、こうした閉鎖のあり方に「作品」なるものの可能性を見てきました。

* * *

さいごに一年間の台湾での活動を振り返ってみたいと思います。

台北・士林での制作

日本統治時代の面影を残し、現在でも日本の都市との多くの平行性を持つ台北の街中にあって、それとは異質な要素としての「移動式屋台」に注目し、映像および写真作品の制作を行いました。本作の撮影のため、ギャラリー内に浅いプールを設え、薄く張った水の上に愛玉子(オーギョーチ)の屋台を招き入れました。屋台のイメージは水面の反射を通じて捉えており、撮影後にそのイメージを上下反転しています。水の表面が波立ち、天井から水滴が落ちる際、水面に映った屋台のイメージが揺らぎ、消滅していく、その様をスローモーション用のハイスピードカメラで撮影しており、作品中盤で現れるサウンドは、愛玉子が作られる際の音の断片を再構築したものです。

Exform – Taipei, 2015 from Kosuke Ikeda on Vimeo.

台南での制作

台北での個展終了後には台南でのグループ展に招かれ、現地での滞在制作を行いました。ちょうどこの時期、李祖原設計による「台南中国城」が、まさに取り壊されようとしているところでした。ランドマークタワー「台北101」をはじめとして多くのポストモダン建築の設計で知られる建築家による「台南中国城」は、80年代にオープンした当初多くの人で賑わい、90年代を通じて急速に衰退し、2015年の時点では廃墟同様の姿で巨大な駆体を街中に留めていました。リサーチを重ねる中でこの建築と出会い、この台南中国城の地下フロアの一角にはカラオケセットが運び込まれ、独特の空間が作り出されている、その奇妙な状況に感じ入るものがありました。あるエリアに自生していた屋台群を区画整理する算段で建てられたポストモダン建築の内部を、いわば「再屋台化」するかのように現れている、このカラオケ空間をめぐって映像および写真作品の制作を行いました。


from Kosuke Ikeda on Vimeo.

台北国際芸術村および国立台湾美術館(台中)での近作の再展示

台北・台南での新作に取り組んだのち、2016年に入ってからは、近作のインスタレーションを再展示する機会に恵まれました。台北国際芸術村にて滞在制作を行いながら、2013年に東京で制作・展示した作品《Water’s Edge》を台北バージョンとして再制作し、さらに国立台湾美術館でのグループ展「Regeneration Movement」では、2015年に台南での個展の際に発表した《モノの生態系 – 台南》を再構築することになりました。

国立台湾美術館_1

《モノの生態系 - 台南》国立台灣美術館での展示風景 photo: 汪紹綱

《モノの生態系 – 台南》国立台灣美術館での展示風景 photo: 汪紹綱

* * *
台湾滞在後は京都へ移り住むことになりました。祇園四条からほど近くにある元小学校にスタジオを構え、そこを拠点に長期的な制作を取り組もうとしているところです。京都芸術センターでは台湾での学生運動に着想を得たワークショップ「モノの占拠」を行い、こうした台湾をめぐるプロジェクトは、来年に向けて引き続き展開していく予定でいます。不思議なものですが、台湾滞在を終え京都に移動してようやく「ひまわり学運」をモティーフにした試みに取り組むことになりました。台湾では距離を取ることが難しかった出来事について、京都という場から距離をもってアプローチすることが可能となってきたのかもしれません。

モノの占拠_1

京都芸術センターでのワークショップ「モノの占拠」の様子。センター内のモノを集めて参加者と共に空間の一部を封鎖し、モノたちが空間を24日間占拠する。photo:守屋友樹

京都芸術センターでのワークショップ「モノの占拠」の様子。センター内のモノを集めて参加者と共に空間の一部を封鎖し、モノたちが空間を24日間占拠する。photo:守屋友樹

さらに思いがけない路地との遭遇というべきですが、本連載の中国語(繁体字)への翻訳「地域與藝術共生之筆記」が、台湾の美術批評系サイトで始まっています。その都度の思索に外殻を与えるつもりで書き連ねてきたテキストたちが、植物の種子のように予期し得ない風に乗って吹き飛ばされ、別の場所で生きられるかもしれない、そうした偶然的な幸運の一つの形であるように感じています。

松戸を拠点としてまちづくり事業を進めるMAD Cityの企画として二年前に始まった本連載ですが、開始当初は一年間で終える予定でした。そこからさらに台湾編の一年分が追加となり、連載開始時に設定されていた「地域アート」をめぐる議論からも、ずいぶん遠くまで来てしまいました。縛りなく自由な議論――いわゆる「まちづくり」の実践と容易には混じり合わないであろう議論の展開をお許しいただき、連載を支えてくださった方々に感謝したいと思います。ありがとうございました。

関連イベントのご紹介

池田剛介+山峰潤也+寺井元一「アートと地域の共生をめぐるトーク」

この連載のなかでは、現在の日本で見られる地域アートプロジェクトとは異なるアートと地域(社会)の関わり方、つまり「地域にアート作品が配置される」などではなく「地域そのものがアート的になる」とでも言うべき、新たな関係性を模索するかのような考察が綴られてきました。このたび、台湾編全6回が公開され、連載が終了するタイミングで、池田同様に台湾のアートシーンをよく知るキュレイター山峰潤也と、MAD Cityで地域・まちづくりの現場に関わってきた寺井(株式会社まちづクリエイティブ)をゲストに迎え、これまでの連載を通じて「アートと地域の共生について」語るトークセッションを行います。
2016年10月2日(日)15:00- 池田剛介+山峰潤也+寺井元一「アートと地域の共生をめぐるトーク」

プロフィール

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池田剛介(Ikeda Kosuke|美術作家)

1980年生まれ。美術作家。2005年東京藝術大学大学院先端芸術表現専攻修了。平成17年度文化庁新進芸術家在外研修員としてボストン滞在。平成27年度ポーラ美術振興財団在外研修員として台北滞在。 自然現象、生態系、エネルギーなどへの関心をめぐりながら制作活動を行う。近年の主な展示に「Regeneration Movement」(國立台灣美術館、台中)、「モノの生態系 – 台南」(絶対空間、台南)、「Tomorrow Comes Today」(國立台灣美術館、台中)、「あいちトリエンナーレ2013」(納屋橋会場、愛知)、「メルボルン芸術発電所」(RMITプロジェクトスペース、メルボルン)など。 www.kosukeikeda.net

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