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分からないものと出会うための場 「古民家オープンスタジオ」レポート

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「古民家スタジオ 旧・原田米店」は松戸駅から徒歩5分にある大正時代からの面影を湛えた古民家シェアスタジオです。
現在15組のクリエイターの皆さんが入居され、日々制作活動に勤しんでおられます。
2013年より行われている「古民家オープンスタジオ」のレポートを入居者であり美術作家の池田剛介さんが書いてくださいました。

古民家オープンスタジオレポート-分からないものと出会うための場-

私がいまのスタジオと出会ったのは3年近く前になります。2010年の松戸アートラインプロジェクトに参加した際、当時使われていなかった米屋の敷地内にある古びたガレージに心惹かれ、作品の展示場所として希望したのがそもそものきっかけでした。

ガレージとして長く使用されていなかった上、周囲を取り囲むマンションからやって来るビル風の吹きだまりとなっていたため、展示空間として使う際には長年積層したらしいホコリとススを洗い流す作業に苦労したことを覚えています。この時の展示では、水を循環させながら空間内に雨を降らせる作品を手がけることになり、縁あってそのままスタジオとして利用を継続することになりました。


《無人島に降る雨》2010、松戸アートラインプロジェクト2010での展示風景

2010年のアートラインプロジェクトを終えた直後から株式会社まちづクリエイティブが仲介役となり、現在計15組のアーティストやクリエイターたちが、この「古民家スタジオ 旧・原田米店(以下「古民家スタジオ」と省略)」の空間をシェアしながら使用しています。

利用者の方向性は多岐にわたり、東京芸大で美術を専攻する学生やイラストレーター、子供のためのアート教室やDIYのスキルを共有しながらワークショップをおこなうクリエイターなど、さまざまな関心と専門性を持つメンバーが活動を展開中です。空間の改装(あるいは改造)が自由に行えるということもあり、古民家の佇まいを保持するだけでなく、そこに多様な趣向をインストールしていく場ともなっています。

松戸駅から徒歩5分という恵まれた立地に、こうした古い敷地や建物が残っているということ自体が、松戸のポテンシャルでもあるのでしょう。実際、その周囲は高層マンションに取り囲まれ、ポッカリと穴があいたように空間がが広がっています。

近隣地域を観察していると、しばらく前まで古い住居や店舗が残っていた場所が取り壊され、数ヶ月もしないうちにマンションとして建替えられている、という光景をよく目にします。古民家スタジオの空間は、古い空間をそのまま残しながら新たな形で活用できている、珍しいケースだと思います(裏を返すと、いつデベロッパーによる地上げの憂き目にあうかも分からない、ということですけれど)。

現在、年に3回程度オープンスタジオを行い、近隣住民へのスペースの公開を行っています。私は第1回目に参加することができたのですが、その機会にあわせて水屋スペースの改造を行い、水耕栽培のシステムを作るとともに、植物を用いた作品の実験を公開しました。現在(2013年8月)、ここでの実験を発展させた作品が、トーキョーワンダーサイト渋谷、および名古屋でのあいちトリエンナーレ2013にて公開されています。


池田剛介+大和田俊《Interference》2013、古民家オープンスタジオでの展示風景

《干渉の森》2013、トーキョーワンダーサイト渋谷での展示風景
photo: ©Tokyo Wonder Site

私にとってスタジオは、このような実験と制作の場であり、オープンスタジオはそうした日々の営みに区切りを付け、公開しながら作品として発展させていくための重要なステップとなっています。制作は日々、展覧会などでの作品の公開を目指して進められるわけですが、オープンスタジオでは、展覧会に求められるような完成度を必要とせず、途上にある作品を来訪者の様々な意見に開いておく、いわば制作に風通しを与える時間となっています。(制作環境としての古民家スタジオについては、以前に大山エンリコイサムさんとのトークでも話しました。)

* * *
ところで近年、地域コミュニティにアーティストが関わるタイプの企画は全国的に、それこそ数えきれないほど行われるようになりました。ありていに言えば「猫も杓子も」状態。そうした中、松戸での事業に固有性があるとすれば、他の地域アートの取り組みは期間限定型のものが大半であるのに対し、まちづクリエイティブによる貸し不動産業と連動したそれが、非常に長期的なまちづくりとして行われている点に見いだせるでしょう。そしてこのようなまちづくりの観点から言えば、松戸での地域活性化の事業はかなり成功しつつある、と言えると思います(私はまちづくりに関しては全くの素人なので、一人の利用者としての実感ということですけれど)。

いま「まちづくりの観点で」と言いましたが、私個人としては、こうした活動はそもそもアートと言う必要すらないと考えます。地域住民とのコミュニケーションの場づくりや子供を巻き込んだ工作イベントなどは、あくまでも「まちづくり」として独立した価値があるのであって、そこにアートなどというレッテルを貼ることに、どのような意味があるのでしょうか。そのようなレッテルを外した方が、より好き勝手にやれるのではないかと考えるわけです。

とはいえ、こうした物言いはアートと地域との関係を考える上で、あまりにも突き放したような態度であるようにも思いますので、古民家スタジオの例をふまえつつ、別の可能性を提示しておきたいと思います。その可能性を一言で言えば「分からないものと出会うための場」としての可能性ということです。どういうことでしょうか。

多くの地域系アートでは、周辺住民が参加しやすいもの、つまりは「理解可能」なものが求められることになります。一見それはアートが民主主義的な形態をとりながら社会に開かれる、すばらしいことのように思われるかもしれません。ですが実際のところ、そうした要請のもと行われる取り組みは、アートとしてのエッジを失った、いわば牙を抜かれた形になってしまいがちです。

このような万人にとって「理解可能」なアートは多くの場合、最大多数の人が安心安全に楽しめるよう最適化されたエンターテイメント、その中途半端なまねごとにしかならないわけです。そうして社会の問題に向かい合うどころか、都合良く現実から逃避した(つまり、あらかじめ了解可能な範囲の相手を想定した上で成立する)馴れ合いのコミュニケーションへと落ち込むことになってしまう。事実、各地で行われている多くの地域系アートで、こうした問題が露呈していることは周知のとおりでしょう。

私たちが世界に対して感覚を研ぎすませ、ものを考え始めるのは「分からないもの」と遭遇した時です。「批評的」という言葉は英語でcriticalですが、この言葉は同時に「危機的」であることを意味します。未知なるもの、すなわちコミュニケート不可能な何者かと出会い、自己の存在が危機に曝されるただなかで、世界への感覚は鋭敏になる。そこでこそ真に思考するということが始まるのではないでしょうか——震災に直面した私たちがそうであったように。

迂回が長くなりましたが、であるとすれば、地域コミュニティの中のアートもまた、「分からないもの」であって一向に構わないと思います。実際、古民家スタジオで行われている活動の多くは、私のそれも含め、さして地域に開かれているタイプのものではありません。むしろ利用者のそれぞれが長い時間をかけて独自の技を磨き、作品として育てていくようなものであるといえるでしょう。即時的なコミュニケーションから一旦切り離されてこそ、そうした個的な時間は可能になる。

しかしそれらは地域から完全に切り離されているわけではなく、時にオープンスタジオのような形で、いわば地域に対して「半開き」となり、それぞれの活動を垣間みせます。そこに過剰なコミュニケーションは必要ではなく、それぞれが突き詰めている世界をそれとして提示する、という形が理想的ではないでしょうか。

松戸で行われている長期的なコミュニティへの関わり方の利点は、ここにあります。訪れる人たちは、そこで提示されているものを即時的に理解することは出来ないかもしれないし、それで構わない。しかしその発展のプロセスを長期的に見ながら、時に作者と会話を交わしていく中で、ようやく理解できていくものがある。そこにこそ安易なコミュニケーションに陥ることもなく、単に理解不能なものとして閉ざされてしまうのでもない、未知なるものとの出会いが組織されることになるのかもしれません。

私たちの古民家スタジオがこのような、地域とアート、あるいはより広く、地域とクリエイションとの新たな関係を築いていく、その一つのモデルとなることができるでしょうか。松戸に残る、この少し特別な場所の行方に密かな期待を寄せつつ、日々の制作に励みたいと思います。

池田剛介(美術作家) 2013年8月

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