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終わりなき改装 #2

株式会社まちづクリエイティブの本拠地である、千葉県松戸市。その駅前半径500メートル内の仮想自治区「MAD City」には、賃貸を行っている数多くの物件がある。

古かったり、作りが特殊だったり――いわゆるワケあり物件にも思われるそれらの多くは、賃貸にも関わらず入居者によるDIYやリノベーションが認められており、独自のクリエイティブな発想のもと生活空間を彩りたいというクリエイターたちから人気を集めている。

本企画ではそんな個性あふれる入居者たちを訪ね、彼らの発想から立ち上げられた生活空間とその工夫を2記事に渡ってレポートする。

photo:Takashi Kuraya
texti,edit:Shun Takeda


【前編はこちら↓】


 

暑い日だった。前半の取材を終えて「中華厨房ゆうえん」で回鍋肉定食をとり、そのあと喫茶店「川名」でアイスコーヒーを飲んだ。どちらも昭和風情の残る店で、現在も元気よく営業している個人店が少なくない松戸の町の豊かさを感じる。

取材後半にまず訪れたのは、MAD Cityのフラッグシップ的物件である「MADマンション」。
松戸駅東口にほど近い賃貸マンションで全20戸のうち、15戸をまちづクリエイティブが運営している。全室改装可能条件のため、アトリエ兼住宅として使っているクリエイターから、店舗や事務所として使っている方までさまざまだ。

小野愛さん(アーティスト)

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2019年12月末にこの部屋に引っ越してきたという小野さんは、大分県出身のアーティスト。関東に出て作家活動をしようと思っていたところ、都内以外の選択肢もと考えたときに、前編でお宅訪問をした井上さんに同郷のよしみで松戸とこの部屋を紹介してもらったそう。すぐに気に入り入居を決めた。

 

照明のいらない明るい部屋

案内され足を踏み入れると、まずその明るさに驚く。窓が多く風の抜けも気持ちがいい。

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「窓が多いのは魅力でした。風が入るし眺めもいいんですよ。あと、私の暮らしは制作と生活が一体になっていて区切りがないので、変則的なワンルームのようなこの部屋は暮らしやすいんです」

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リビングの片隅には、これまでに制作した作品の一部が並ぶ。小野さんの作家活動のキーカラーは白。なぜか好きで執着しているというこの白で、部屋自体もペイントしたそうだ。

「まずは床と柱。その他窓枠などの木材の部分を一通り塗りました。これまで住んでいた家でも棚をつくったり壁を塗ったりしていたので、自由にいじれるのがとってもいいです」

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白く塗られたおかげで、部屋はさらに明るさを増す。午後から曇天となったこの日でも照明は必要がなかった。

 

古い道具たちと過ごす

もともとアンティーク雑貨や古道具が好きだったという小野さん。部屋にはこれまでの暮らしの中で集められた愛用品たちが並ぶ。

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「そのまま使うこともあれば、自分で手を加えてみることもありますね」
様々な時間軸を持ったアイテムが、混在しながらも静謐な雰囲気を放っていた。

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以前の持ち主と時間によって加えられた味わいが、小野さん自身の作業と溶け込んで、古くて新しい道具として立ちあらわれる。それはアンティーク雑貨だけでなく、改装可能物件であるこの部屋自体にも言えることだろう。

古さの上に重ねられた新しさ。真新しいのっぺりとした賃貸物件よりも、リノベーションされた部屋にこそアンティーク雑貨は映える。

 

これからの松戸の暮らし

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「年末に引っ越してきて、すぐにコロナのこともあってまだあまり松戸の町を満喫できていない」と語る小野さん。

「でも最近昔からやっていそうな喫茶店やお豆腐屋さんを見つけたんです。専門店や個人商店も多いみたいなので、開拓しがいがありそうですよね」とうれしそうに語ってくれた。

取材の合間に趣味でもあり、制作のあいまに行うという石積みを見せてもらった。

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取材チームも挑戦するがなかなか難しい。ちょっとした禅のような気分。石に混ざって置かれていたフィギュアが最後立ち上がった時、わっと小さな歓声が上がった。

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taka konoさん(アーティスト)

「次の取材もこのマンションですか?」と尋ねてくれた小野さんも誘って、同物件内の違う部屋へ。次もアーティストの暮らす部屋なので、まだ未見だという二人をつなぎ合わせようということに。こういうったことがしやすいのも、このMADマンションの魅力だろう。

たずねたのはtaka konoさんのアトリエ兼住宅だ。

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この部屋で暮らして1年ほどというtakaさん。ニューヨークの美術大学を卒業後帰国し、しばらくは日本橋で暮らす父親と同居していたが、制作に使えるスペースを求めてMAD Cityにやってきた。

その時に担当になったまちづクリエイティブのスタッフも作家活動をしていたことから、ふたりは意気投合。ここだ! と思って他の部屋は内見せず即決したという。

 

広大な制作環境

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「決めては広さ。壁が取り払われてて広くて作業するのにぴったりで。ただ敷かれていた床、前の人が入れていたんですが、けっこうこれがデリケートで。一回染料をこぼしちゃったんですけどすぐ染まっちゃって(笑)。無垢でコーティングしてないから気持ちがいいけど、そのぶんデリケートなんです」

大型の作品も制作するtakaさんにとっても十分なこのスペース。
その壁にはこれも巨大なミラーが立てかけられていた。聞けば引っ越しをしようとしていた時に、捨てられているのを見つけたものだそう。

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白く塗って、あとはもうそのままでもいい

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シンプルな男性の部屋、という印象のこちら。どのような改装をしたのだろう?

「もともと壁は白かったんですけど、さらに上から白く塗っていたら、やっぱり天井も塗りたくなって。養生したんですけど垂れてきて大変で、先にやればよかったと後悔しました(笑)。あとは棚くらいですね。やっぱり一番は制作のためのスペースを確保しておくことがしたいので、そこまでがっちり改装したいとは思ってないんです」

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前の住民が壁をぶち抜いて広大なワンルームにしていた手前、入居時点ですでにtakaさんの欲しがっていたスペースが確保されていた分、現状に満足している様子。あえて「それでも手を加えるとしたら?」と聞くと「エアコン」との意外な答えが。

「別にぼくはなくても気にしてないんですよ。でも友達がくると、エアコンあったらいいのにって言われて。風が抜けるから夏は特に平気なんですけどね」

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ベランダには、takaさんが富士山でひろってきたという溶岩が。

青木威明さん(電気工事/関連部材制作・販売)

最後に訪れたのは、まちづクリエイティブが扱う物件の中でも、様々な意味で最も話題となっていた通称「こけし荘」という物件。かつては下宿生向けの共同住宅だったというが、30年ものあいだ空き家だったという。

そんな物件を工房兼倉庫として使っているのが、青木さん。電気におけるクリエイティブ事業を行う「デンキノアオキ」を経営されている。

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それまで松戸に住みながら、墨田区の京島エリアで建築家などの仲間たちと古い物件のリノベーションを行っていたという。10件ほどの改装を手がけ、メンバーたちとシェアカフェの運営もおこなっていたが、松戸から墨田区に通うのが次第に大変になり、自宅のそばに工房と倉庫が持てたらなと思っていたそう。

「そこでまちづクリエイティブさんに『ちょっと勧めるのにも抵抗があるのですが……』と言われながら教えてもらったのが、ここ。風合いとはとても言えないほど古びてたんですが、フリーレントをつけてもらえたのでその間に工事ができるかな、と思い借りてみたんです」

仕事柄、一般の人よりも建物の細部に目が効く青木さん。水漏れの危険を感じるところもあったが、ここなら自分が改装したら一緒におもしろがってくれそうな人が周りにいる、と感じて借りたそうだ。

 

コンセプトは「昔の人も粋なことをしてたんだ」と思える空間

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「自分は建築家でもデザイナーでもないけど、ちょっとクリエイティブなことが好きな職人のようなもの」と自らを語る青木さん。手を入れ始めると、軸組構造と呼ばれる工法でこけし荘がつくられていることに気がついた。

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「どうしたって古いものは古いわけです。なので昔の工法を活かして改装していこうと。『昔の人も粋なことしてたんだね』なんて思われたらいいなと思って手を加えました」

 

技師としての見えない部分へのこだわり

こけし荘のすぐそばには、豊かな森林が広がっている。自然豊かなのは魅力のひとつであるが、その分増すリスクというのもある。その一つが湿気だ。

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「入ってみたら湿気が本当にすごくて。そこで床下に換気扇を仕込んで湿度を排出する仕組みを導入してみました。この建物は見えないところのものを含めて、6つも換気扇がついているんですよ(笑)」

青木さんの工夫はこれだけではない。湿度の溜まりやすい廊下の壁には、吸湿性抜群の素材である珪藻土を含んだ漆喰を自ら塗り上げた。

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電気をつかったクリエイティブ

青木さんが今後トライしたいというのが「電気を使ったクリエイティブ」だ。

「本業で得たスキルを活かした電気的な仕掛けを、この建物に組み込みたいんです。入り口に赤外線センサーを仕込んで『おかえりなさい!』って声が鳴るとかね。また小物も作っているので、3Dプリンターを導入して手作業と組み合わせることで、より効率的におもしろくものをつくれるようにしたいんです」

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他にも子供向けの電子工作ワークショップなど、やってみたいことのアイディアは尽きない。たくさんのアイディアが生まれるのも、いつでも実現できる「場」があってこそなのかもしれない。

 

改装は終わらない

6人それぞれの個性が落とし込まれた部屋を回ってきたあと、一人になって最初に脳裏に浮かんだのは「誰も家具を買っていなかったな」という素朴なものだった。

賃貸物件に住んでいるからなのか、家具は必要に応じて買い揃えるものだという感覚がある。それが当然のことだと思っていたけれど、買うという選択肢しか浮かんでこないのは、部屋自体を改変することができないからなのかもしれない。

いろどり付近

改装可能なMAD Cityの物件に住む人たちには、きっと「買う」以外の多様な選択肢がある。それぞれ自分がしたい暮らしがあって、拡張可能な部屋がある時、人は自らの身体を動かし、脳内のイメージをそこにつくりだすことができる。

ある人は壁を壊し、ある人はダイニングテーブルを自作し、またある人は広いスペース確保のため大きな改装は行わずゆったりと窓辺に座っている。その人の必要に合わせて、アイディアは自在に伸縮する。

マッドマンション

その「必要」はきっと住んでいく中でも変わったりするのだろう。だからきっと、彼らの改装は終わらない。

「買う」よりも先に、「つくる」が浮かんでいく暮らし。賃貸でも実現できる方法がそこにはあった。

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※本記事はmadcity.jp および M.E.A.R.L の共通記事となります。

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