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「アルファベットを書くように建物を描く」PARADISE AIR ロングステイ・プログラム招聘アーティスト ヴァスコ・ムラオさんが松戸の街で描くアートとは?
世界55カ国129都市から合計251通の応募
千葉県にある東京のベッドタウン・松戸は海外からアーティストが訪れ、滞在し、アート作品が生まれる街に変わりつつあります。その大きな理由として、アーティスト・イン・レジデンス「PARADISE AIR」が企画運営しているプログラムにより、国内外からアーティストがたくさん松戸に集まっていることが挙げられます。これまでに、40名近いアーティストが松戸を訪れ、創作活動を展開してきました。
今年度で3回目となる「PARADISE AIR」のロングステイ・プログラムは、世界55カ国129都市から合計251通の応募がありました。その中から選出されたのは、ポルトガル出身のアーティストのヴァスコ・ムラオさんです。ヴァスコ・ムラオさんは2015年11月2日〜2016年1月29日までの約3ヶ月間、「PARADISE AIR」を拠点に様々な創作活動を展開しています。今回、ヴァスコ・ムラオさんにご自身の創作スタイルや、松戸での滞在制作の体験、なぜ都市をテーマに絵を描くのか、などについてお話を聴いてきました。
ペンと紙と時間と音楽を使って創作する
ヴァスコ・ムラオさんは建築を学び、建築家として働いていましたが、今は緻密な絵を描くドローイングを専門としたアーティストとして活動中です。ご自身の創作スタイルについて聴くと、「ペンと紙と時間と音楽を使って創作する」と応えてくださいました。ペンと紙は創作には欠かせないものだとすぐ分かりますが、時間と音楽とは一体どういうことでしょうか。まず時間は、「1日に最大6時間くらいが創作にかける時間の一つの単位」とおっしゃるように、紙にペンで描く作業はとても長い時間がかかるものです。そのため長い時間が必要ということです。次に音楽は、そんな長時間、集中力を持続させるために必要になるということですね。例えば、スティーヴ・ライヒのようなミニマルミュージックが集中力を持続させるために良いそうです。
都市の風景から発想
ヴァスコ・ムラオさんの作品のインスピレーションは都市の風景から発想されます。なぜ都市をモチーフにしているのかというと、「都市は奥深く、誰とでも共有できて、人々の生活をそのまま反映するから」です。美術作品の制作でもイラストレーションの仕事でも、できる限り細かく密度の高いディテールを大事にしているそうです。
松戸の人たち100人にインタビュー
松戸での滞在制作は(1)知る(2)描く(3)展示する、の3つのフェーズで進んでいきます。まずは(1)知るのフェーズです。ヴァスコ・ムラオさんの来日は今回のロングステイ・プログラムが2回目。松戸の街についての知識が無かったため、松戸に住む人や働く人などに街中で直接インタビューしていきます。街中とはカフェや道端、居酒屋さんなど至る所のことです。インタビューで尋ねる内容は「松戸で一番好きな場所とその理由」です。松戸全体の印象だけでなく、松戸に住み暮らし働く人たち個々人の視点を知ろうとされています。現在、96人にインタビューされたということで、目標の100人まであと少しです。インタビューで得た情報やお話からどんな作品が生まれるのか、今から楽しみです。
建物のスケールが急に変わる
ヴァスコ・ムラオさんが松戸で滞在制作し始めて1ヶ月半、松戸の街の面白さについてお聴きしてみると「松戸の街は高層マンションが建っていると思いきや、急に低層な住宅や店舗、駐車場などが現れる、スケールが急に変わる点が面白い」と応えてくださいました。松戸で仲良くなった方の誕生日会のあとに連れて行ってもらったとても狭い居酒屋さんや、周囲を高層マンションに囲まれた古民家など、松戸のお気に入りスポットを教えてくれました。(インタビューは12月中旬に行いました。)
まちに開かれたアーティスト・イン・レジデンス
松戸の街にすっかり溶け込んでいるヴァスコ・ムラオさん。しかし、アーティスト・イン・レジデンスのプログラムは世界中にたくさんあります。なぜ松戸のアーティスト・イン・レジデンス「PARADISE AIR」を選ばれたのでしょうか?それは「よくあるアーティスト・イン・レジデンスはアートの世界に閉じがち。PARADISE AIRの場合は松戸の街にアートが開かれていて、地元住民と一緒になって時間をかけて創作できることが魅力」とおっしゃってくれたように、地域コミュニティと密接な関係を有していることがポイントだそうです。
アルファベットを書くように建物を描く
ヴァスコ・ムラオさんはなぜ都市をモチーフにドローイング作品を描くようになったのかについて、「なぜだかわからないが、18歳までは馬の絵ばかり描いていた」、「大学で建築を知り、描く対象が馬から建物にスイッチした」と応えてくれました。ヴァスコ・ムラオさんにとっては元々絵を描く行為が日常だったようです。筆者のようなライターにとって文章を書くのが日常だとすれば、ヴァスコ・ムラオさんにとっては絵を描くのが日常なのかもしれません。例えば、港がアルファベットで言うA、窓がBのように。「アルファベットを書くように建物を描く」という言葉が印象的でした。
幟(のぼり)がヒントに?!
現在、ヴァスコ・ムラオさんは発表に向けた作品を制作中です。松戸に滞在している中で、日本人なら当たり前で気づかないですが、お店の前などで良く見かける広告である”のぼり”が、とても面白いとおっしゃっていました。こうした発見は実際に滞在してまちで生活してみないと見えてこないことです。地元住民の人たちとのインタビューや松戸の街並み、滞在生活を通じて、どのような作品が生まれるのかワクワクします。制作発表は2016年1月末です。どのような作品が完成するか、ご期待ください!
PARADISE AIR(ウェブサイト)
ヴァスコ・ムラオさん(ウェブサイト)
また、松戸市文化ホール(松戸ビルヂング4階)内でヴァスコ・ムラオさんの公開制作が行われています。松戸市文化ホールは月曜日、年末年始(12月29日から翌年1月3日まで)を除く日の午前10時から午後6時まで開館しています。是非、足を運んでみてはいかがでしょうか?
著者プロフィール
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funahashi taku
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空き家を魅力的な「まちのコンテンツ」に生まれ変わらせたり、社会的課題解決のツールとして活用したい、そんな観点から書いているブログ「空き家グッド」を運営しています。2015年6月からはMAD Cityのウェブメディア「madcity.jp」に記事をちょくちょく寄稿しています。
http://akiya123.hatenablog.com/
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