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仲間が辞めない「生態系」が新事業をつくる。R不動産が社員を雇わないわけ(後編)
その物件に住んだとしたら、いったいどんな暮らしが待っているのだろうか。そんな問いに対して、まるで魅力的な物語を提案するかのような、不動産メディアの雄・東京R不動産。そのディレクターであり株式会社スピークの共同代表である林厚見さんは、フリーエージェントとオーナシップという仕組みで、ひとつの法人にとどまらない多彩な事業展開を行う「生態系」を形づくっていた。
集った仲間が離れないために、共通の音楽性を持った仲間を探すために、彼は何を考えたのか。創業までのバックストーリー、ディベロッパーとは何者か、ビジネスとロジックのあり方、場所とそこにまつわる物語……縦横無尽に繰り出されるお話を、M.E.A.R.Lを運営する株式会社まちづクリエイティブ代表取締役の寺井元一がうかがった。
Text / Edit:Shun TAKEDA
Photo:Yutaro YAMAGUCHI
仲間が辞めない「生態系」が新事業をつくる。R不動産が社員を雇わないわけ(前編)
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仲間づくりのために、企業が発するべきメッセージの形
寺井 うちの場合は、様々な拠点にスタッフが居住しながら仕事をする機会が多いんです。理想をいえば、各地に自分で旗を立てにいって、そこで「自治区」を自らつくりだしていくような人材を育てたり採用したい。ただそんな能力とエネルギーを持っている人が、小さな会社の一社員に納まっているわけもないですよね。
現状一番課題だと思っているのは、そんな仲間とどうやって出会えるのかということ。ただここにはもう一つ課題があって、そんな人と出会えたとしても雇用条件など、よい形で合意形成させられるのか、ということでも悩んでいて。
林 まず、まちづクリエイティブの仕事は、大きく分けるとどんな感じなんですか?
寺井 まずは本拠地である千葉県松戸市の「MAD City」での不動産のサブリースに絡む業務、もう一つは松戸から離れた様々な地方で、実際にその場所に滞在しながら新しいまちづくりの手法をプロデュースする企画業務でしょうか。
林 松戸でやってきた世界観や方法論を各地に展開しておもしろい街を生み出していく、ということですか?
寺井 そうですね。僕はよく「自治区」という言葉を使うんですが、テーマとしてやりたいのはあるエリアの中で暮らす人々と一緒にルールを変えていきたい、ということ。これは都市計画的な大きな話ではなく、生活者と一緒に時代の変化に合わせて心地よい形にルールを更新していきたいんですね。公園で音を出してOKとか、スケボーやってOKとか例えばそんな話で。
林 なるほど。その自治区的な発想が、まさに僕がまちづクリエイティブをおもしろいと感じている部分です。その上ですこし抽象的な話をすると、会社や組織の見え方とメッセージというものがあると思います。
組織の見え方から考えると、まちづクリエイティブやMAD Cityには、「松戸でおもしろいまちづくりをやっている寺井さん」とか「アート、クリエイティブ、まちづくり、というフレーズから浮かぶ、ある種ほっこりしたイメージ」などが浮かびます。実際の寺井さんはけっこうゲリラ的というか、動物的な感じなのにね。寺井さんの言う「自治区をつくりたい!」っていう人たちは、まちづくりという言葉の持つほっこりイメージには惹かれない層なんじゃないですか?
寺井 その通りだと思います。
林 恐らく寺井さんが必要としている人材は、今のカタい世の中に中指立てるとは言わないまでも、少なくとも「素敵な暮らしをつくろう」的なトーンではおそらくないんですよね。そうであれば、対外的には、寺井さんのいうところの「自治区」をつくりたいメンバーを支援する寺井さん、という見せ方をしないといけないんじゃないかと。「まちづくりをサポートしてくれる人募集」というメッセージを出していたとしたらズレてしまうんじゃないですか?
寺井 そもそも会社の名前自体にひらがなの「まちづくり」が入っていますし、そういうイメージを持たせてしまっているのかもしれません。
林 社名を「自治クリエイティブ」にするとか?(笑)。
寺井 そうですね…そうか「自治クリエイティブ」か……。
林 それはまあ冗談ですけど(笑)。話を戻して2つめの課題。優秀な人がいたとしても条件面でマッチしない、というのは採用における普遍的な課題ですよね。この解決策は、求める人材スペックのハードルを下げるか、求める人材と結託できるスキームを発明するかしかない気がします。
後者の方法としては、例えば最初からフランチャイズ化をするのはありだと思います。まちづクリエイティブから資本を一部注入して、暖簾分けのような形で地域拠点の展開を一緒に進めていくような。
寺井 47都道府県での新しいまちづくり事業を展開していくんで、最初の拠点をやってみないか、ということですよね。
林 そうそう。一国一城の主にしたうえで徒党を組もうと。そのとき一番大事なのはそのビジョンやマニフェストがいかに心に刺さるものであるか、ってところですよね。
寺井 なるほどなるほど。
林 あと、組織としては寺井さんタイプじゃないマネージャーもいるべきなんでしょうね。寺井さんも取締役の小田さんも「攻め型」ですよね。「保守管理型」のマネージャーがいると解決することも多いのかもしれないですね。
寺井 人にはそれぞれの持場があるっていう、これは採用も同じですよね。
林 ですね。都市デザインでも、創造的・戦略的に企業や行政ともネゴったりしながら、新しいことを仕掛けていく人はもちろん貴重だし必要だけど、一方で毎日朝からやっているコーヒー屋さんの優しい笑顔、というのも同じようにすごく重要ですよね。後者の人たちの出番をどうつくれるか、という視点も同じく持っていないといけないですよね。
「ファッキンな理屈」と「素晴らしい物語」が出会う場所
寺井 ちなみに、最後に聞いてみたいんですが、林さん個人が今ここおもしろいと思っている町ってありますか?
林 あ、その質問、来ましたね。それはすごく答えるのが難しくて……。自分は2年ごとに引っ越すので東京の中でも色んな街に住んでみました、で、どこも好きな町でした、っていう感じがあります。2拠点生活をガッツリしているわけでもない。対してリスクとってないんですよ……。
寺井 いやいや、住環境にリスクテイクする必要はないと思いますよ(笑)。
林 まあそうなんですけどね(笑)。あ、そういえば新島の話をしましょうかね。
寺井 あ、ビーチラウンジの「WAX」の、新島ですね。新島では宿を運営していたんですよね?
林 はい、縁があって遊びにいったら気にいって、saroという宿とカフェをつくりました。今は二拠点シェアみたいな場所をやって時々行ってますが、自分にとっては第二の居場所といえます。都会にない環境があって、いい仲間がいて、大好きな場所。なんていうか、ここが今おもしろい、というより、自分が愛着がある街、という話の方が意味があるかなと思ってます。
WAXというのは毎年夏に1ヶ月オープンするビーチラウンジで、僕の友人と地元の仲間たちが14年間やってたんですが、WAXとそこに関わる人たちとの出会いはいいものでしたねえ。
寺井 気になりますね。どんな人たちとの出会いがあったんですか?
林 話すとほんとキリがないんだけど、例えば地元で土木の仕事とかをしつつ外からきたサーファーと喧嘩したりしていたような、ある意味くすぶってた若者たちが、「WAX」をやって島外の人を迎え入れて喜ばせるという立場になったことで、自分たちが主役として表現したり場をつくることを通じて、本当に気持ちのいい青年に成長していったっていうね。
僕もそんな彼らを見ながら場所をつくろうと思ったし、そうした動きから刺激を受けた島の女性が、自分で素敵なホステルを開いたり、いろんな波及が生まれました。WAXの初期メンバーたちが組んだナムレというバンドなんてもう最高で、テクは大したことないけど、その島でしか生まれ得ない最高のバイブスがあるんですよ。で、そのメンバーの一人は島に住み始めたときはちょっとふてくされて将来のことなんて考えていなかったのに、仲間たちの日々を映像として撮っているうちに志が芽生えて、プロの映像ディレクターになっていった。
寺井 ひとつの場所から、様々な人たちの人生が交差していったんですね。
林 僕は僕で、新島の持続する未来みたいな話を考えて役場に提案したりっていう真面目なこともしましたけど、なんていうか、僕なんかが頭で組み立てたファッキンな理屈なんて、彼らが発していた人としての輝きに比べたら全然取るにたらないと思ったりするわけですよ。
ただ、世の中の課題全てがヒューマンな思いだけで解けるわけではないので、ファッキンな理屈も必要で、両方が支えあうんだと思うんです。僕は理屈とかデザインを意識高く語るスカした人間にはなりたくないけど、スキルとして得意なのはそっち側。だからこそ、人の心にしみる物語を体現しながらある意味フツウに生きてる人々に、いつも憧れと信頼を持ち続けてるんです。
ちょっと語りすぎましたね……。好きな町の話に戻ると、おしゃれなコーヒーショップがあるのもいいし、人の顔が見える町もいい。でもそれ以上に、場所と人との結びつきから生まれた物語のようなものに僕はものすごく意味を感じます。それはきっとどこの街にもある。そういうものってどう生まれていくのだろう、どうしたら失われないんだろう、と今日もルノアールでつらつら考えているというわけです(笑)。
※本記事はmadcity.jp および M.E.A.R.L の共通記事となります
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