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【掲載情報】有田の老舗窯元・幸楽窯とまちづクリエイティブによる「転写民芸」プロジェクト第二弾|小田雄太インタビュー
佐賀県武雄市で、武雄温泉エリアを拠点に「TAKEO MABOROSHI TERMINAL」を運営する株式会社まちづクリエイティブと、家庭用食器から割烹食器に至るまで、幅広く華麗な陶磁器を佐賀県有田市で焼き続ける創業150年の老舗窯元・幸楽窯。そのコラボレーションプロジェクトとして始動した「転写民芸」。幸楽窯の持つ伝統と技術を用いて、様々なアーティストやクリエーターが有田焼に絵柄を転写するこのプロジェクトは第2弾となる。
参加作家は、たかくらかずきさん、寺本愛さん、小田雄太さんの3名。本特集では、このプロジェクトの発起人であり自らもクリエーターとして作品作りをするまちづクリエイティブ取締役/COMPOUND inc.代表の小田雄太さんにお話を伺う。コロナ禍に制作が開始されたという第2弾を迎えるにあたり、本プロジェクトを通じて転写技術の魅力にフォーカスする理由、制作プロセスから向き合うことでみえてきた、あらたなものづくりの形について紐解いていく。
Text: Yoko Masuda
Photo(Interview):Keitaro Niwa
Edit: Moe Nishiyama
量産を可能にする伝統技術「転写」を紐解くことから
──第2弾となる「転写民芸」について、あらためて本プロジェクトの企画背景、特に転写の技術に注目した理由からお話を伺えたらと思います。
「転写民芸」は、日頃平面作品を制作しているアーティストやイラストレーターに声をかけ、共に老舗窯元・幸楽窯を訪れることから始まります。「民芸品」のなかでも「陶磁器」を手がけてきた窯元に大量に保管されているデッドストックから各々気になるものを発掘してもらい、選び取った器の形態に合わせて、絵柄を考えてもらう。そこから窯元が転写技術を用いて絵柄のみならず表面の仕上げのニュアンスまで作家と相談しながら再現し、あらたな立体作品のようでありながら、多くの人に日常生活で使われるような「民芸品」を作り上げていくというコラボレーションプロジェクトです。
昨今クリエイターの間でも「陶芸」が脚光を浴びるようになりましたが、このプロジェクトで「陶磁器」づくりにフォーカスしているのには理由があります。前提として「陶磁器」は縦割りの役割分担の上に成り立ってきたものづくりなんですね。土を練り形にするところまで基本的にひとりで進める「陶芸」と異なり、「陶磁器」は制作工程ごとに専門家が配置され、一つひとつの作業工程のクオリティが保たれるようになっています。さらに産業として成立させるために、専門家たちを統括する商社がある。
「有田焼」も例に漏れず各工程に専門家がいて、かつ有田焼の場合は専門家が九州中に広がっています。九州の南に位置する「熊本」の土を、北にある「長崎」の波佐見に移動させ、そこで作られた白い陶磁器に「佐賀」の有田で絵付けをする。
第1弾からプロジェクトに共に取り組ませていただいている老舗窯元・幸楽窯は、土を練って型を作るところから最終的な焼き上がりまで、ワンストップでできる数少ない窯元。転写から焼き上げまでの一連のプロセスを見せてもらうなかで、特に転写シートを貼り付ける職人技に驚きました。
平面の転写シートを水に濡らし皺を少しずつ伸ばし、だるまやひょうたんなど複雑な三次曲面をもつ形態にも綺麗に貼りつけられていく。
量産を可能にするための技術なこともあり、有田焼に携わる人たちのあいだにおいて、転写技術は一点ものの絵付けよりも軽んじられてきた傾向があるそうです。ただ、実は機械では到底実現することが難しい繊細な表現まで卓越した職人技によって実現している。この技術が活かせるプロジェクトにしようと考えました。
無意味なものに向き合う人間の宿命。見た目は派手な「白い皿」
──小田さんは全体のコーディネートをしつつ、今回も自身の作品を作られていますよね。小田さんの作品について教えてください。
今回は意味を持たない刺身皿を作りました。意味を持たない、という点については後ほど言及しようと思いますが、昔ながらの旅館に行くと、この皿に刺身や練り物がちょこんと乗って出てくる。お皿の上になにを乗せても良いわけですし、食べ物でなくてもアクセサリーや小物を乗せるのにちょうど良いサイズです。でもこの形は自分で型から作ろうと思ってもなかなか作れない形だなと思い、この皿の型を選びました。
前回の香炉も今回の皿もそうなのですが、用途があいまいなものっておもしろいなと。長い歴史をもつ幸楽窯にはデッドストックの器が大量にあるのですが、そのなかには用途不明の器もたくさんあります。昔は豊かな時代だったので明確な役割や目的をもたない器も多かったんですよね。
作品のコンセプトは、前回に引き続き、今回も言葉から連想して考えています。個人的に否定の意味をもつ「NO」や「UN」がつかない否定形の英語を集めることが好きなのですが、今回制作の軸にしたのが「フュートル(futile)」という言葉。
第1弾で制作した香炉には「無関心」や「無気力」を意味する「アパシー(apathy)」という言葉が記されています。日本語の構造的には「無+関心」なので翻訳したら「no + interesting」かと思いきや、英語では独立した一語が与えられている。否定形だと思っていた名詞にも一つの言葉として固有の名が与えられていることは、「無」そのものにも価値が与えられているというようにも読み解けます。この日本語と英語の違いがおもしろいなと。
「フュートル(futile)」は「無駄」「無益」という意味。むなしいとか、数字にならないとか。この皿に描かれている数字も意味がありそうで、意味がないんです。実はこの数は週刊誌の人名の後ろについている年齢。「XX氏(60)」みたいな(笑)。フォントも週刊誌に寄せています。割とみんなも目にしている数字だけど、意味はない。
── 週刊誌の年齢から引っ張ったのですね!
そう。ただの年齢で、意味はありません。年齢はなかなか3桁いかないので、3桁は使っていない。
── このすごろくや迷路のようなデザインにはどんな意図があるのでしょうか?
幾何学的な図形と有機的なライン。ベースとなる皿の形を軸に、異なる要素を組み上げることを意識しています。香炉は側面の四角形に対して幾何学的な構造を用いたグリッド状のデザインに落とし込みましたが、今回はより特殊な形をした皿の外形を強調するようにグリッドを引き、一方でそれを無視するように視点が行き来するような曲線を描いています。
一番大変だったのは、オブジェクトが上下で重なり合い、かつ隣り合う色がすべて複雑に絡み合っている点を反映しながら、7色それぞれの版を作ること。シルクスクリーンでTシャツを刷る版をイメージするとわかりやすいのですが、たとえばシルバーのオブジェクトがほかの色のオブジェクトの下をくぐっている場合は、シルバーの版はブランクにする必要があります。逆にほかの色の上を通る場合は、シルバーの版にはオブジェクトを反映し、ほかの色の版はブランクにする必要がある。
さらにそこから、その転写シートを、職人さんは一つずつ手作業で貼りつけていきます。転写技術の巧みさや多様さ、奥行きを感じてもらうことがこのプロジェクトの面白さでもあるので、そうした特徴的な部分を強調するデザインになったのではと思いますが、想像以上に複雑で大変な作業でしたね。「無益」というレッテルが貼り付けられ、週刊誌上のだれかの年齢が書かれている、極めて無駄な皿の絵柄を、僕は超複雑に版を作り、転写職人は一生懸命貼る(笑)
── 無駄に思えるようなことを、すごく一生懸命やっていると。
そうです、プラスマイナスゼロみたいな。ひとつの画面の中に、矛盾するもの同士を一対一の関係で収める。この皿はとても派手に見えますが、概念上は「白い皿」なんですよ。
── なるほど! それはどういった発想から生まれたのでしょう?
こういう虚無っぽいもの、単純に好きなんですよね(笑)。というのと、意味のないものに対して一生懸命やるのが人間の宿命だと思ってるんです。
ふだんの仕事では何もないところから意味を引っ張り出し、その意味が最大化するようにデザインを作ります。一方で自分が好きに作るときは、あえてゼロになるように作っていますね。
また、派手に見えるけど概念的には「白い皿」というのは、ある種のストイックさやミニマリズムに対してのささやかな反抗でもあります。絵柄は盛りまくっているけれど、それぞれに込められた意味はすべて相殺されるようになっている。
マルチプルで趣味性が問われる民芸品の可能性
── 「転写民芸」という名のプロジェクトですが、あらためて「民芸品」をどのように捉えていますか?
「転写民芸」は、プロダクトとして「カトラリー」を作るというよりも、「民芸品」を作ることに重きを置いています。「民芸品」の定義には諸説あると思いますが、あくまでも僕自身は「芸を感じる」ことが民芸だと考えています。つまり、わけがわからないもの、目的があいまいなもの。そういったものこそが「民芸品」だと呼ばれて然るべきなのではないかなと思うんですね。たとえば、木彫りのクマとか。
現代社会においては用と無用という価値基準で物の性質が二分されてしまっているので、ちょうどそのあいだくらいの使われ方で趣味性が問われる民芸品がもっと増えてもいいんじゃないかなと感じています。
── 今後も陶磁器作りに注目していく予定ですか?
そうですね。僕は複製芸術、つまりマルチプルなものに価値や可能性を感じています。マスプロダクトの製品があり、アートという一点ものがある。そのあいだにあるのが「マルチプル」なものです。それはマスプロダクトよりも人間の手技や息遣いが感じられ、限られた複数人に届いていく。
陶芸は一点ものであることが宿命づけられていますが、製品化された陶磁器はある程度の生産量を確保できる仕組みになっている。転写も何万個を作ることは難しくても、100個ぐらいだったらトライアルが可能です。
実際にマルチプルなブランドは近年増えていますよね。たとえばスニーカーは、昔はマスプロダクトであることが前提じゃないと作れませんでしたが、最近はいわゆるガレージブランドと言われる少量でオリジナリティがある商品を作っている人たちもいます。技術革新も相まって、ものづくりの世界に民主化が始まっているような気がしていますね。
── 最後に、日本の伝統的な技術とアーティストのコラボレーションの可能性について考えていることがあれば教えてください。
どんな業界でも誰かが混ぜ返しをしていかないといけないと思うんです。ジャンルの横断が横軸の混ぜ返しであるのに対し、古くからあるものに新しい考えを持ち込むのは縦軸の混ぜ返しです。そこから新しい価値観が生まれていくと思うので、混ぜ返しのような動きは常にしていきたいと思いますね。
伝統工芸が後継者不足などで徐々に産業として廃れていくといわれている昨今、一つの解決策として引き継がれてきた伝統的な技術に新たな価値を見出していくには、あいだに立って新旧の言語を翻訳する人が必要なのだと思います。今回でいうと、伝統技術を担う人とアーティストやイラストレーターの間に立つ僕のような役割の人。そういう人がいれば可能性がある取り組みも作り出すことが可能なはずだと、「転写民芸」のプロジェクトを通じて感じています。僕自身がこのプロジェクトを通して、R&D(リサーチアンドディベロップメント)させてもらっているような気がしますね。
また「転写民芸」のプロジェクトから視点を広げて、ふだんは一点もののアートワークを手掛けるアーティストのみなさんにも新たな楽しみ方を発見してもらえたらと考えています。同時に伝統技術を継承してきた窯元のみなさんにもこのおもしろさを感じてもらいながら、あらたな協働体制も見据えていけたら嬉しいですね。転写民芸に関しても、今回第2弾として3種類を作り、全6種類が揃ったので、具体的な販売活動を進めていきたいと思っています。
※本記事はmadcity.jp および M.E.A.R.L の共通記事となります
プロフィール
小田雄太 / Yuta ODA
- まちづクリエイティブ取締役 クリエイティブディレクター、COMPOUND inc.代表、多摩美術大学グラフィックデザイン科・日本芸術大学A&A非常勤講師、文化庁メディア芸術広報事業クリエイティブディレクター アートや音楽、ファッションからニュースメディアまで、グラフィックデザインを軸足に事業開発支援、プロジェクトデザインを手掛ける。最近の主な仕事としてdiskunion「DIVE INTO MUSIC」クリエイティブディレクション,「NewsPicks」UIUX開発・ロゴデザイン,下北沢「BONUS TRACK」,Startbahn社リブランディングなど。
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